小学校でのプログラミングの必修化や2025年の共通試験での情報科目の追加など、プログラミングは現在の教育で注目されているテーマのひとつである。パソコンやタブレットがあれば気軽にはじめることができるプログラミングだが、具体的にどのような力が身につき、どのように学習をすればいいのかわからないという人は多いのではないだろうか。今後ますます、プログラミングの重要性が高まっていくことが予測され、大人も子どもも関係なく、基礎的な知識を身につけておく必要がある。そんななか、プログラミングを基礎から応用まで学ぶことができる一冊が出版された。全世界で700万人に読まれたロングセラーシリーズの『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からのプログラミング』である。本書は藤原和博氏(朝礼だけの学校 校長)、野田クリスタル氏(お笑い芸人・マヂカルラブリー)、尾原和啓氏(元グーグル・IT評論家)と各専門家から絶賛されている。今回は出版記念としてプログラミング教育の専門家である東京工業大学助教の栗山直子氏に特別インタビューを行い、プログラミングの意義や学習方法について聞いてきた。

初心者でもつまずかない!パソコンいらずなプログラミング的思考の学習方法とは【東京工業大学助教が教える】Photo: Adobe Stock

日常に隠れているプログラミング的思考

――プログラミング学習と聞くと、パソコンがなければ始められないという印象があります。

栗山直子氏(以下栗山):たしかにプログラムをしっかりと進めていく上ではパソコンは必要になります。ですが、プログラミングに必要な考え方を学ぶという観点ではパソコンがなくとも学習・習得は可能です。

プログラミングには「アンプラグド(unplugged)」という考え方があります。プラグを抜いて電気を通さない(通っていない)という意味の英単語ですが、プログラミング領域でも、パソコンを使わないプログラミングという意味で使われます。

たとえば、机の上のものを取ると仮定したとします。単純に考えれば手を伸ばして対象物を掴むわけですが、実はこの行動にもプログラミングが隠れています。

どういうことかというと、人は無意識にそのことを行動していますが、自分が命令者となって目隠しをした人に机の上のものを取ってもらう場合、手を伸ばして対象物を掴むだけでは通じません。どこにあるのか、どれくらい手を伸ばすのかなど、詳細な指示が必要になります。

30cmほど手を伸ばして、10cm手を下ろして…と細かく行動を分けなければものを取ることはできません。

何度同じことをしても求める結果が再現できるようにしなければいけないのがプログラミングです。

パソコンを使わなくてもこのように基礎となる考え方を勉強することはできます。

栗山直子栗山直子(くりやま・なおこ)
東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院/環境社会理工学院 社会人間科学系 社会人間科学コース 助教授
専門は教育心理学・認知心理学。主な著書に『メタファー研究の最前線』(分担執筆、ひつじ書房)、『6歳からはじめるプログラミングの考え方』(児童用教材、分担執筆、アルク)、『問題解決のためのデータサイエンス入門』(分担執筆、実教出版)。

――たしかに、パソコンがなくとも考え方は学ぶことができますね。

栗山:さらに身近な例を出すと、私たちの生活のなかにもヒントは多く転がっています。

たとえば、9時にオフィスに出社するためには何時に起きて、何時の電車に乗るのか逆算して考えることも簡易的ではありますがロジックを組み立てるという意味ではプログラミング的な思考と言えます。

このように考えてみるとプログラミングは決して難しい話ではなく、身近な学問であると感じてもらえると思います。

――プログラミングが身近なものに感じられます。

栗山:大人の方にとって、プログラミングは学問としてまだまだ未知のものだと思う方がいるかもしれませんが、むしろ逆で、考え方そのものはビジネスパーソンの思考回路に非常によく似ています。

パソコンが苦手という方でもプログラミングの考え方を理解したり、学ぶことは十分にできるので楽しんでもらいたいと思っています。

他者に正確に「家」を描いてもらうことはできるか

――ありがとうございます。パソコンを使わずにできるプログラミングの学習方法が他にもあれば教えてください。

栗山:自分が命令者となって、人に正確に「家」を描いてもらうなどの課題も非常に面白いです。

どういうものかというと、自分で簡易的に家を描こうとすると三角と四角をそれぞれひとつずつ描けば家を描くことはできると思います。

初心者でもつまずかない!パソコンいらずなプログラミング的思考の学習方法とは【東京工業大学助教が教える】

ですが、他者に家を描いてもらおうとした場合、「四角のうえに三角を描いて」という指示だけでは、大きさや角度など、ばらつきが出てしまいます。

家イラスト

このように、指示が不十分だと自分の求めるものを得ることができないので、どういう指示をしたら正確に伝わるのか、いわばこのプログラムを考えることが思考のトレーニングになります。

そのほか、プログラムコードだけではない、書籍などで基礎知識を身につけることも有効です。

はじめて勉強する方がコードを覚えようとするとハードルが高いので、基礎・基本が学べるものからはじめるのがおすすめです。

その意味ではプログラミングの実践の前の予備知識がしっかりしている『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からのプログラミング』は良い教材です。

小学生が学んでいるビジュアルプログラミングのスクラッチを取り上げたあとに、Pythonを用いたプログラミングが紹介されていたり、小学校でスクラッチを学んだ子どもにとっても、そして初学者の大人にとっても段階を踏んでわかりやすく学習できるようになっていると思います。