いま、注目を集める研究会がある。わずか2年で約1000人規模へ拡大し、東大新入生の20人に1人が所属する超人気研究会に成長した、「東大金融研究会」だ。創設者は外資系ヘッジファンドに20年在籍し、超一流の投資家として活躍してきた「金融界の鬼才」伊藤潤一氏。地上波をはじめメディアでも注目を集める人物だ。東大金融研究会ではお金の不安から自由になり、真の安定を得るために「自分の頭で考える」ことを重視している。世の中に溢れる情報や他人の声に振り回されず何が正しいのかを自分で判断し、物事を本質的に理解し、論理的に思考を展開することで、自立した幸せな人生を歩むことができるからだ。本連載では、東大金融研究会の教えを1冊に凝縮した初の書籍『東大金融研究会のお金超講義』から抜粋。頭のいい人だけが知っている「お金の教養と人生戦略」を紹介する。
シンプルな一言の中にある愛情
かつて近鉄バファローズなど日本のプロ野球球団やメジャーリーグでピッチャーとして活躍し、現在は千葉ロッテマリーンズのピッチングコーディネーターを務める吉井理人さんは、2018年まで北海道日本ハムファイターズで投手コーチとしてダルビッシュ有選手や大谷翔平選手の指導をされていました。
吉井さんが日ハムのコーチだった時代、私が試合を見に行ったときのことです。その当時、大谷選手はちょうど怪我から復帰しようとしていた時期。1回、2回は乗り切ったものの、中盤はつかまって打たれてしまいました。私の周囲で試合を観戦していた人たちが、口々に「交代が遅すぎる」と言っていたのを覚えています。
いよいよ交代というとき、吉井さんがマウンドに向かい、大谷選手に何か話している様子が見えました。誰が見ても残念としか言いようがない状況の中、交代を告げるときに吉井さんはいったいどんな言葉をかけたのでしょうか?
その夜、吉井さんと食事に行った私は「あのときマウンドで大谷選手に何と言ったのですか?」と尋ねてみました。
吉井さんの口から出た言葉は、意外なものでした。
「思ったより、良かったじゃん!」
私は、このシンプルな一言の中にコーチとしての愛情を感じました。
ここで「頑張ったね」とねぎらっても、それはポジティブな意味を持たないでしょう。あの残念な状況で「良かった」と言われれば、大谷選手にとってはポジティブサプライズになっただろうと感じましたし、これがメジャー流なのだなとも思いました。
実際、私が吉井さんに「その言葉がかけられたのは、吉井さんがメジャーを経験したからではないですか?」と尋ねると、吉井さんも同意してくれました。
失敗を怒るのではなく、挑戦をほめる
私がオーストラリアに住んでいた頃、息子がプレーするサッカーチームでコーチを務めていた経験があります。私が選手に対して怒ると、オーストラリア人のコーチから「怒るな」と言われたものです。
日本ではコーチが選手に怒るのが当たり前だったので、最初は戸惑いました。しかし実際、オーストラリアでは、選手がドリブルでボールを持ちすぎて転ぶようなことがあっても「よくやった!」というのです。
少なくとも当時の日本では、たとえ持ちすぎていなくても、相手の好プレーがあっても、ボールをとられれば怒られるのが普通でしたから、指導方針の違いにはかなり大きな差があったと言えます。
私は、日本のように怒られ続けることで子どもがトライすることをやめてしまう危険性を感じるようになりました。「ダメでもいい、よくやった」と言われ続ければ、少なくとも思い切りのよさやチャレンジ精神は生まれるのではないかと思います。
いま私は東大金融研究会のメンバーたちに、挑戦を続けてその中でチャンスをつかんでいってほしいと思っています。
(本原稿は、伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義 超一流の投資のプロが東大生に教えている「お金の教養と人生戦略」』から一部抜粋・改変したものです)