いま、注目を集める研究会がある。わずか2年で約1000人規模へ拡大し、東大新入生の20人に1人が所属する超人気研究会に成長した、「東大金融研究会」だ。創設者は外資系ヘッジファンドに20年在籍し、超一流の投資家として活躍してきた伊藤潤一氏。東大金融研究会ではお金の不安から自由になり、真の安定を得るために「自分の頭で考える」ことを重視している。世の中に溢れる情報や他人の声に振り回されず何が正しいのかを自分で判断し、物事を本質的に理解し、論理的に思考を展開することで、自立した幸せな人生を歩むことができるからだ。本連載では、東大金融研究会の教えを1冊に凝縮した初の書籍『東大金融研究会のお金超講義』から抜粋。頭のいい人だけが知っている「お金の教養と人生戦略」を紹介する。

「いまの仕事を続けていいか」迷ったらやるべき「シンプルなこと」Photo: Adobe Stock

「より多くの命を救いたい」から医師を辞める決断をする

東大金融研究会で講演をしてもらった人の中に、私の中学時代からの友人の医師がいます。

もともと彼が医師になったのは「多くの命を救いたい」という理由でした。

しかし彼は医師として仕事をする中で迷いを感じるようになります。

そのきっかけは、「神の手」と言われる高い技術を持つ医師たちと一緒に仕事をしたことです。

彼はどの医師にも「『神の手』だから治せた患者さんは正直なところどのぐらいいるのですか」と尋ねたそうです。

すると、どんなに素晴らしい「神の手」を持った医師でも、「5人以上」と答えた人はいなかったといいます。逆に「自分だから救えなかった患者さんがたくさんいる」という医師が多かったそうです。

おそらく、「助けられなかった」という自責の念がそのように言わせたのかもしれません。それでも彼は「『神の手』を持つ人でも現実がそうなのであれば、『よりたくさんの命を救いたい』と思いながら、自分はまったく逆のことをやっているのかもしれない」と思い悩むようになったのです。

彼は結局、医師を辞め、国家的な枠組みをつくる役割を担うべく、厚生労働省のイノベーションを進める組織で医系技官になる道を選びました。

私はこの彼の意思に、「その先へ」という思いを感じ取りました。

彼の話には、余談があります。

自分で医師を辞めると決めてから、彼は初めてしっかりと患者さんに向き合ってみたのだそうです。それはほんのちょっとしたことで、たとえば患者さんが2時間点滴を受ける場合、それまでは看護師の方に「2時間点滴をしたらあとは帰ってもいいからね」と言付けてすませることが多かったところ、1時間後に患者さんに「調子はどうですか」と声をかけて様子を確認し、さらに2時間後には自分で「もう帰っても大丈夫ですよ」と伝えに行ったりしたのだといいます。

そうやって患者さんと向き合うと、患者さんから感謝の手紙が届くようになりました。それまでは1通ももらったことがなかった手紙を読み、「やはり医師として仕事を続けるべきだろうか」とまで思ったと聞き、私は「いい話だな」としみじみ思いました。

私たちには、向き合っているようで向き合えていないことがたくさんあります。そのことに学生が1人で気づけるはずはありません。私自身、49歳で彼からその話を聞くまで気づいていませんでした。

ですから、なるべく早い段階で、彼のような人を含め、さまざまな人たちの話を聞くことには意味があると思います。

それだけで人生が大きく変わるわけではないかもしれません。ただ、話を聞いた人のうち10人に1人くらいには、何か小さな気づきを得てほしいと願っています。

それがいつか、人生の選択に影響を及ぼす可能性はあると思うのです。

(本原稿は、伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義 超一流の投資のプロが東大生に教えている「お金の教養と人生戦略」』から一部抜粋・改変したものです)