【出口学長・日本人が最も苦手とする哲学と宗教特別講義】
日本人の9割が知らない！
「スンナ派vsシーア派」の裏側

世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU（立命館アジア太平洋大学）学長。世界史を背骨に日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した『哲学と宗教全史』が「ビジネス書大賞2020」特別賞（ビジネス教養部門）を受賞。発売3年たってもロングセラーとなっている。
◎宮部みゆき氏（小説家）が「本書を読まなくても単位を落とすことはありませんが、よりよく生きるために必要な大切なものを落とす可能性はあります」
◎池谷裕二氏（脳研究者・東京大学教授）が「初心者でも知の大都市で路頭に迷わないよう、周到にデザインされ、読者を思索の快楽へと誘う。世界でも選ばれた人にしか書けない稀有な本」
◎なかにし礼氏（直木賞作家・作詞家）が「読み終わったら、西洋と東洋の哲学と宗教の大河を怒濤とともに下ったような快い疲労感が残る。世界に初めて登場した名著である」
◎大手書店員が「百年残る王道の一冊」
◎日経新聞リーダー本棚で東原敏昭氏（日立製作所会長）が「最近、何か起きたときに必ずひもとく一冊」と評した究極の一冊
だがこの本、A5判ハードカバー、468ページ、2400円＋税という近年稀に見るスケールの本で、巷では「鈍器本」といわれている。“現代の知の巨人”に、本書を抜粋しながら、哲学と宗教のツボについて語ってもらおう。

イランが十二イマーム派を熱烈に信仰する理由

　4代カリフのアリーは、ムハンマドの娘であるファーティマと結婚しました。

　その次男であるフサインの妻の一人は、サーサーン朝ペルシャの王女でした。

　すなわち、この妻とフサインの間に生まれた子どもは、イスラーム教の創始者の血統とサーサーン朝ペルシャの王統をともに受け継いでいることになります。

　しかもサーサーン朝はペルシャが誇る伝統王朝、アカイメネス朝と血がつながっているといわれる名門です。

　そしてこのように二重に高貴な血を受けたフサインの子どもたちは、カルバラーの戦いの後も、あまりにも幼すぎたために虐殺をまぬがれていたのです。

　カルバラーの戦いでフサインを失ったクーファの人たちは、自分たちが護衛の兵力を送らずにフサインを旅立たせたことを深く哀しみ、反省しました。

　しかし、このような悲劇があっても、高貴な血を引く子どもたちが生き残ったことを、不幸中の幸いだったと思い直しました。

　ペルシャの名門王家とムハンマドの血を引く一族が誕生したのです。

　これほどペルシャの人々にとって誇らしい一族はありません。

　そして彼らは、アリーとフサインから始まる一族の長をイマームと呼びました。

　イマームとは指導者の意味です。

　こうしてペルシャの地では、現在に至るまでシーア派が優勢で、政治と宗教の主導権を握ってきました。

　なお、ペルシャとは現在のイランのことです。

　今日でもイラン・イスラム共和国は、シーア派の中の最大派閥である十二イマーム派が宗教と政治の主導権を握っています。

　この十二イマーム派は16世紀の初頭、イランをサファヴィー朝が支配したときから、イランの国教となっています。

　十二イマーム派という呼称は、次のような理由から生まれました。

　十二イマーム派では、初代イマームをアリー、3代イマームをフサインとして、フサインの血統のイマームが順次続いた後、12代のイマームが少年のときに「お隠れ」になったと考えています。

　それは980年のことで、この事件を「ガイバ」と呼んでいます。

　そして「お隠れ」になった12代のイマームは、やがて最後の審判の日に、姿を現わすのだと教えます。

　おそらく「お隠れ」になったとは、死んだか殺されたかの事実をそのように表現したのでしょう。