「氾濫するなんて思ってもいなかった」
大雨で甚大な被害が出た熊本県の白川
「氾濫するなんて思ってもいませんでした。こちらはそれほどの大雨ではなかったし、前夜まで川の水の量も心配するほどではありませんでしたから。それが朝7時頃から一気に増え、あっという間に溢れ出しました」
こう振り返るのは、熊本市東区に住む西島幸二さん。昨年7月12日、自宅前を流れる白川が氾濫し、床上浸水の被害に見舞われた。西島さんは着の身着のままで避難するしかなかったが、決壊が深夜でなかったことが不幸中の幸いだったと語る。
局地的な豪雨の発生が近年、目立つようになった。昨年7月には九州北部で梅雨前線豪雨が発生し、各地に大きな被害をもたらせた。なかでも熊本県阿蘇地域は「1000年に一度」と言われるほどの豪雨となり、土砂災害で多くの方が犠牲となった。
一方、大きな浸水被害を引き起こしたのが、阿蘇を源に熊本市内などを細かく蛇行しながら有明海に注ぐ込む白川だ。熊本県の中央部を横断する長さ74キロの1級河川である。
上流部に降った大量の雨が一気に流れ込み、1956年の観測開始以降、最大の水位(熊本市内の基準地点で6.32メートル)を記録した。このため、流域の各所で水が氾濫し、2983戸(支流の黒川での被害も含む)もの家屋が浸水する甚大な被害となった。
この白川、実はこれまでにも度々洪水を引き起こしていた。1953年と1980年、そして、1990年である。戦後4回目の水害となるが、被害の規模は過去に例のないほど大きいものとなった。幸い、人的被害は免れたものの、流域住民は不安を募らせている。
だが、住民らが抱いているのは不安だけではなかった。行政への不満や怒り、疑問といったものも地域内に広がっている。流域住民の生命と財産を守り、さらには、安心して暮らせる条件整備を担うべき行政の姿勢に対してである。
これまで行政が行ってきた治水対策と災害後に実施している治水対策の双方に、住民の多くが不満や怒り、疑問の声を上げているのである。