球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』(王立協会科学図書賞[royal society science book prize 2022]受賞作)は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者からの書評などが相次いでいる。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。(初出:2022年9月1日)
生命は深海から…
生命が存在すること自体が驚きだが、そのはじまりの早さにも舌を巻く。生命が火山の奥底に出現したのは、地球が誕生してからわずか六~八億年後のこと。
月に大きな衝突クレーターをつくるほどの大きさの天体によって、宇宙から爆撃されていたころだ。いまから三七億年前には、生命は永遠の暗闇である深海から、太陽の光に照らされた水の表面へと広がっていた。
三七億年前には、何兆個もの生き物が大群となり、宇宙からも見えるような構造物、すなわち礁(しょう)をつくりはじめた。地球上の生命が完全に誕生したのだ。
しかし、礁を形づくっていたのはサンゴではない。サンゴが地球上にあらわれるのは、さらに三〇億年ほど後のこと。
世界の支配者
礁は、シアノバクテリア(藍色細菌)と呼ばれる微細な生物の、緑がかった髪の毛みたいに細い、糸状や尾っぽ状の粘液でできていた。
これは、いまでも池に浮いている青緑色の藻と同じ生き物だ。海底の岩や芝生の上にシート状に広がるけれど、嵐が来れば砂に埋もれてしまう。
それでも、また陣地を広げて、ふたたび埋もれて、をくり返し、粘液と堆積物が層になったクッションのような塚を築く。
このストロマトライトと呼ばれる塚状の塊は、地球上でもっとも成功した永続的な生命体であり、三〇億年ものあいだ、誰もが認める世界の支配者として君臨することとなった。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)