地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。

地球の歴史上で“最初の大量絶滅”を引き起こした「宇宙でもっとも危険な物質」とは?Photo: Adobe Stock

生命が誕生したときの世界

 生命が誕生したのは、暖かいけれど、風と海の音しかしない世界だった。

 風は酸素をほとんど含まない空気をかき混ぜていた。大気の上層部にオゾン層がないため、太陽の紫外線は、海面上はもちろん、海面の下、数センチメートルまで殺菌してしまう。

 そこで、シアノバクテリアのコロニーは防衛手段として、こうした有害な光線を吸収する色素を進化させた。いったんエネルギーを吸収したら、それを利用することができる。シアノバクテリアは、そのエネルギーを使って化学反応を促した。

 そのなかに、炭素、水素、酸素の原子から糖やデンプンをつくり出す反応があった。

 これが「光合成」と呼ばれるプロセスだ。まさに、災い転じて福となすというやつだ。

 今日、植物のなかのエネルギーを取り込む色素は葉緑素と呼ばれている。太陽エネルギーを利用して水を水素と酸素に分解すると、エネルギーが放出され、さらに化学反応が進む。

 地球が誕生したばかりのころ、手に入る原料は、おそらく鉄や硫黄を含む鉱物だったはずだ。もっとも優れていたのは、いまもむかしも、いちばん豊富に存在する「水」だった。

宇宙でもっとも危険な物質

 しかし、これには問題があった。水と二酸化炭素を使った光合成では触れたものを「燃やしてしまう」(酸化して変質させてしまう)のだ。このガスは宇宙でもっとも危険な物質の一つ。なんという名前か、だって? 遊離酸素、つまりO2だ。

 基本的に遊離酸素がない海や大気のなかで進化してきた最古の生命にとって、これは環境上の大激変を意味した。

 問題を大局的に見てみると、シアノバクテリアが酸素発生型の光合成に果敢に挑みはじめた三〇億年前か、それ以前には、遊離酸素は微量の汚染物質にすぎず、ほとんど存在していなかった。

 ただ、酸素はとても強力なので、酸素がないところで進化してきた生き物にとっては、微量であっても災いとなった。

 ほんのちょっとの酸素が、地球の歴史上で最初の大量絶滅を引き起こし、何世代にもわたって、生き物たちを生きたまま「焼いた」(つまり酸化した)。

(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)