社内の「人的資本の正のサイクル」を回す

 これらも簡便法による参考数値ではあるが、IWAIの日本第1号のケースとして、「従業員(雇用)インパクト会計」に関してHBSとの共同研究を行い、その結果を「エーザイ価値創造レポート2021」で開示したことは、日本企業のESGの定量化や説明責任の改善に一石を投じたと考えている。

 この「エーザイの従業員インパクト会計」では、HBS (IWAI)のセラフェイム教授のチーム(当時)の3名 (George Serafeim, David Freiberg, Katie Panella) の多大なる貢献があった。また、当時のエーザイ社内でも、庄門充財経本部長はじめ財務部門、人事部門、開示部門から献身的な協力を得た。CEOや社外取締役の支持・支援もいただいた。

 さらに、従業員組合幹部のグループにも、「決算労使協議会」の場で「従業員インパクト会計」を説明したところ、強い賛同とともに「インパクト加重会計で日本の従業員が大きな価値創造を果たしていることが数値で明らかになった」「人財投資効率が米国企業と比べてもトップクラスとはうれしい」「社員のモチベーションがとても上がる」とのフィードバックが得られた。

 ESG会計あるいはインパクト加重会計により、外部の企業価値評価者である世界の投資家の理解を得るとともに、こうした社内の「人的資本の正のサイクル」を循環させていくことが、ESG経営による長期的・持続的な付加価値創造には極めて重要である。

【参考文献】
コーエン, R. (2021)『インパクト投資 社会を良くする資本主義を目指して』(斎藤聖美訳)日本経済新聞出版.
小平龍四郎 (2021) 『一目均衡:ESG15年、進化する会計』(『日本経済新聞』2021年4月20日朝刊.)
セラフェイム, G. (2021) 『ESG戦略で競争優位を築く方法』(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2021年1月号)2021(1):30-44.
柳良平 (2021a) 『CFOポリシー第二版』中央経済社.
柳良平 (2021b) 『ESG会計の価値提案と開示』(『月刊資本市場』2021年4月号)2021(4):36-45.
柳良平 (2021c) 『従業員インパクト会計の統合報告書での開示:インパクト加重会計イニシアティブの日本第1号として』(『月刊資本市場』2021年9月号)2021(9):24-34.
Freiberg, Panella, Serafeim and Zochowski (2020) “Accounting for Organizational Employment Impact”, Harvard Business School Accounting & Management Unit Working Paper No. 21-050.
Jebb,Tay, Diener and Oishi (2018) “Happiness, income satiation and turning points around the world”,   Nature Human Behaviour volume 2: 33–38.
Panella and Zochowski (2021) “Uses and Applications of Impact-Weighted Accounts” Harvard business School Impact Weighted Accounts.