イングランド銀行(英中央銀行)のアンドリュー・ベイリー総裁は、中銀関係者の中でも、最大の試練に直面している一人だろう。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰と、米国のような人手不足により、先進国で最悪のインフレ高進に見舞われている。ベイリー氏のインフレとの闘いは、ここにきてさらに厳しさを増した。英国のリズ・トラス新首相が巨額減税と、エネ高騰を受けた家計・企業への救済策を打ち出したためだ。その結果、英国では中銀と政府がそれぞれ逆の方向へと経済を導いており、投資家の間で一気に警戒が高まった。英中銀は昨年12月以降、利上げでインフレ退治に注力してきた。しかし、新政権が減税による個人消費の押し上げを狙うことで、中銀の取り組みを損ないかねない状況に陥っている。