相談の下地を作る「アサーションスキル」とは

 大きなストレスを抱えがちなミドル世代が、メンタルへルス不調や自殺を防ぐためには、どうすればよいのだろうか。

 前述の白書によれば、自分の仕事や職業生活でのストレスの相談先について、最も多い回答は「家族・友人」(80.1%)、次いで「上司・同僚」(75.2%)となっている。できれば産業医や外部の心理士といった専門家を頼るのがベターではあるが、まずは身近に頼れる人物がいることも大切な要素といえる。

 身近な人に相談するためには、信頼関係を普段のコミュニケーションの積み重ねで構築しておく必要がある。そうした相談の下地を作るために、「アサーションスキル」を身に付けることは有効だ。

 アサーションとは、自分も相手も大切にしながら言いたいことを伝えるコミュニケーションスキルで、対人関係を円滑にする。そのひとつに、「DESC法」という手法がある。これは、「Describe(描写する)」「Express(説明する)」「Suggest(提案する)」「Choose(選択する)」の四つのステップで会話を進める手法だ。

 例えば上司から残業を頼まれた時、反射的に「無理です」と相手の要求を退けたり、逆に過度に自己犠牲的になって「分かりました」と相手の要求を丸ごと受け入れたりするのではなく、「今日は家族と約束があるので、明日の午前中に仕上げるのであれば対応できますが、いかがでしょう」といった具合に、事実や自分の考えを交えた上で、具体的な代替案を伝える方法だ。

 もうひとつ、「Iメッセージ」という手法もある。「(あなたは)どうして報告しないのか」とYou(あなた)を主語にするのではなく、「(私は)報告がなくて心配した」とI(私)で伝えることで、相手も自分も大切にしながら自分の気持ちを伝えることができる。

 こうしたスキルを用いて、上司や部下、同僚と日ごろから良好なコミュニケーションを取っておくことが、いざ悩みを抱えた時に相談してみようと思える関係性に大きく寄与する。

 多くの企業が仕事納めに向けて慌ただしい師走は、過重労働や長時間労働に気を付けたい時期だ。「冬季うつ」ともいわれる季節性うつを発症しやすい時期でもある。

 自身の働き方と心の状態に目を向け、何かおかしいと感じた時は、適切な支援につなげる第一歩として、SOSを出すことを思い出してほしい。忙しいミドル世代こそ、日ごろから自身のメンタルへルスと向き合う意識や、心を整えるための情報に敏感になろう。