ウ侵攻で露呈したロシアの本質、予想される未来はモスクワのビルに描かれた壁画
PHOTO: THE WALL STREET JOURNAL

――筆者のエリオット・コーエン氏は米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の教授。戦略国際問題研究所(CSIS)で戦略分野のトップも務めている

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 2月24日、ロシアはウクライナに多方面から侵攻し、ロシア帝国を再び確立するための戦争を始めた。だがこの戦争は、そのとき始まったわけではない。ロシア軍がクリミアを占領し、ドンバス地方に押し寄せた2014年に始まったわけでもない。むしろ、少なくとも20年以上前、ソ連が崩壊して数年のうちに、ロシアがかつての権力を回復するためにさまざまなキャンペーンを始めたときから始まっていた戦争だ。

 つまり、ロシアのウクライナ攻撃は、通常の権力奪取ではないのだ。だからこそ、多くの専門家が誤解している。

 国際関係論を専門とする有識者がロシアの行動を「リアリズム」で説明しようとして失敗するのは、国家を指導者の人格はもちろん、文化や歴史から切り離して考えるからだ。この戦争が北大西洋条約機構(NATO)の拡大の結果であると考えたとき、彼らはロシアを通常の安全保障を求める通常の国家として誤解し、その結果、ロシアの略奪的かつ破壊的な性向を誤解した。ウラジーミル・プーチン大統領はたしかに貪欲で残忍かもしれないが、この問題は一人の独裁者よりもはるかに大きな問題である。

 戦争は社会について多くのことを明らかにするが、今回も例外ではない。ウクライナへの侵攻は、正当な不満や独裁者の願望ではなく、ロシアの帝国的な自己認識というもっと根深い問題だ。だからこそ、ウクライナに勝利をもたらし、そのような野望を打ち砕くことが重要なのだ。