「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

糖質制限が必要ないのは、どんな人?Photo: Adobe Stock

人間には、適度な脂肪が必要

 まずは、糖質制限が必要ない人たちを、私のケトン食の研究を踏まえて説明します。

 そもそも見た目を気にして脂肪を減らそうと、ダイエットで糖質制限をする若い女性がいますが、医師として糖質制限はおすすめしません。

 それなら、まず和食を基調とした食生活に変えることをおすすめします。

 そもそも脂肪からは、卵巣を刺激して女性ホルモンを誘導するレプチンが産生されるので、脂肪が少ないと月経が不順になる可能性があります*。

*Childs GV, et al. The Importance of Leptin to Reproduction.Endocrinology. 2021;162(2):bqaa204. DOI: 10.1210/endocr/bqaa204.

 体には、適度な脂肪が必要なのです。

10代から20代は、基本的に糖質制限をする必要はない

 糖質制限するよりもむしろ、適正な運動や筋肉量の維持が大切になります。

 糖質は、人間に必要なエネルギー産生栄養素の一つです。糖質は、体を成長させたり、体を動かすために必要なものであり、主食としてとり入れるだけあって最も基礎的な栄養になっています。

 ですから、体が成長している途中の10代から20代では、何か病気がある場合を除いて、基本的に男女を問わず糖質制限をする必要はないと、私は考えています。

 なぜなら、若い間は、ケトン体の働きによるサーカディアンリズム(概日リズム:昼と夜で体温が変わるなどの日内変動)の調整作用や抗炎症効果(炎症を抑える効果)などがしっかり働いているからです。

 結果的に、筋肉と脂肪のバランスが整って適正な体型が維持され、いわゆるダイエット効果を発揮することになります。

 これは、社会人でも学生でも、主婦の方でも同様です。

自己流の糖質制限は、おすすめできない

 また20代に限らず、肉体労働の人はもちろん、毎日の仕事で多少なりとも筋肉を使い、頭脳労働もしているという人なら、基本的に糖質制限をする必要はないと思います。

 詳しくはあとで説明しますが、筋肉量の維持はケトン体の働きと密接にかかわっているからです。

 私の診察室にいらっしゃる患者さんでも、よかれと思って自己流の糖質制限をした結果、次のような症状を訴える方が多く見受けられます。

 ・疲れやすい
 ・乾燥肌で肌がカサカサになる
 ・冷え症

 なぜ、このような症状を訴えるのでしょうか?

「糖質制限」によって起こる体の変化

 炭水化物の中で、その多くを占める糖質は、体にとって重要な栄養素です。そのことを踏まえたうえで、「糖質制限」によって生じる体の変化について考えてみましょう。

 実は、がん患者さんに私の開発したがんケトン食療法を試してもらう前に、自分で糖質制限食をやってみたことがあります。お米を一切食べずに、1か月を過ごしました。そのときの糖質の摂取量は、おそらく成人の1日の摂取量300gから50~70g程度にまで減少したと思います。

 するとどうなったか? 

 唇がカサカサになり、肌も少し荒れてしまいました。これは、糖質制限によって食事が偏り、ビタミンなどの微量元素が足りなくなった影響です。一時的に体重は2~3㎏減りました。

 摂取カロリーが減少していますので、当然なのですが、では、このとき体はどんな状態になっていたのでしょうか。

 頭では糖質制限をやっているつもりでも、体は、自分が「無人島か冬山で遭難した」と認識し、必死になって血糖値(血液中のグルコースのレベル)が回復するシステムを作動させたのです。

 糖質の摂取量が減ったことにより、体の中では「糖新生」という仕組みが働きます。これは、筋肉からたんぱく質のアミノ酸を分解し、アミノ酸をもとに体内でグルコースをつくり出す働きのことです。

 つまり、口からの糖質量を制限したとしても、体には体内で糖をつくり出し、足りなくなった糖分を補うというメカニズムがあるのです。

 加えてグルカゴンというホルモンにより、肝臓に溜まっているグリコーゲン(グルコースがたくさんつながった多糖類)が分解され血液中にグルコースが放出されます。

 実際、厳しい糖質制限を行うケトン食を実施した患者さんの血糖値は、極端な低血糖にはならず、体内での糖新生により血糖値が安定化することがわかっています。

 この糖新生という血糖値が安定する仕組みがうまく働くと同時に、今度は少ない糖質をできるだけ補給しようと、体は、あらゆる食品から無駄なく糖質を吸収する体質に変化していきます。そして、腎臓からの糖質の再吸収システムが活発になります。

 しかし、同時に筋肉量は減っていきますので、徐々に基礎代謝、エネルギーを消費する力が落ちていきます。筋肉量の多い少ないが基礎代謝量と直接的にかかわっているのです。

 結果、体はどんどん太りやすくなっていき、これがいわゆる「リバウンド」と呼ばれる状態を引き起こします。実際に、私も糖質制限をやめたら、あっという間に体重は元に戻りました。

 ですから、がんばって糖質制限をして無理に体重を落としても、体は「遭難しているぞ」と錯覚して、今度は、あらゆるものから減った分の糖質を取り戻そうとするわけです。これではいくら、「食べる量を減らそう」「リバウンドを防ごう」と努力しても空回りします。

 がんばって糖質を抑えれば抑えるほど、体はより一層糖質を吸収しようと、がんばり出す。やがては、元の体重以上に太ってしまうのです。これに逆らってさらに糖質をとらないようにすると、逆にカロリー不足、偏った栄養状態になって、筋肉は減少し、基礎代謝はますます低下していきます。
大変残念なことですよね。

 では、どうすればいいのかといえば、筋肉を維持しながら、体に蓄積された脂肪をゆっくりと分解し、脂肪酸としてエネルギーに変えていけばいいのです。

 私が研究している「ケトン食」は、まさにそのためにぴったりな方法なのです。

本原稿は、萩原圭祐著『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』からの抜粋です。
監修 大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授・医学博士 萩原圭祐