「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

がんケトン食療法をきっかけに、9年間生き続けたあるがん患者さんの話Photo: Adobe Stock

がんケトン食療法による
驚きの臨床経過

 医師も患者も恐る恐る始めたケトン食の臨床研究ですが、経過は意外なものでした。最初の1週間、糖質10g以下の期間、患者さんはすごくがんばりました。

 当初心配した低血糖は、全く見られませんでした。

 何よりも血中ケトン体が驚くような値を示しました。医師としては、血中のケトン体が数千μmol/L(マイクロモルパーリットル)というのは、普段見たこともない値です。

 一般に血中のケトン体が上昇するとケトーシス(高ケトン血症)になって、吐き気などが出るのですが、そんな様子もありません。

 驚いたことに、患者さんは「先生、調子がいいです」とおっしゃるのです。

 さらに、2週目から糖質20g以下となっても、患者さんはがんばってくれました。

 患者さんと管理栄養士の先生の努力の結果、何とか、最初の評価ポイントである3か月までケトン食を継続することができました。開始から3か月後のPET(陽電子放出断層撮影)‐CT検査を行ったところ、肺のがんはやや小さくなっていました。

 しかし、喜びも束の間でした。紹介元病院で脳のMRI検査をしたら、5mm大の脳への転移が見つかりました。どうやら、ケトン食を始める前から転移していたようでした。

 そして、「もう、いつまで生きられるかわからないから、これからは好きなものを食べて過ごしたい」

 そう患者さんはおっしゃったのです。

ケトン食でがんが縮小し、除去に成功

 当時は、今のようにデータの蓄積もありません。患者さんの言うことも、もっともだと思い、3か月でいったん研究はやめることが可能だったので、切りのいいところでケトン食を中止。あとは、好きなものを食べていただくことにしました。

 この時は、あれほど苦労してつくり上げたがんケトン食療法のレジメ(メニュー)は効果がないのかなと思っていました。

 ところが、その後、脳に転移したがんは、放射線治療をしたら、あっという間に見えないところまで小さくなり、ケトン食で小さくなった肺がんも、分子標的薬(特定の分子にだけ作用するように設計された薬)を使用したらさらに小さくなり、元々あった肺のがんは手術で完全に取り去ることができたのです。

 その後、患者さんは趣味のゴルフもできるようになり、調子のいい時には1日に2ラウンドできるくらいまで回復されました。

 結局、その患者さんは9年間、生き続けられました。この患者さんが、いわゆるファーストペンギンとして挑戦してくれたからこそ、その後、がんケトン食療法の恩恵を受けた患者さんがたくさん現れたのです。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。