
ロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・ガザ紛争がなかなか終結しないのは、「紛争の根本解決」を目指すか、「妥協的和平」で手を打つかの判断が難しいからだ。この問いは時代を超えて国際社会が抱えてきた難題でもある。戦争と平和を繰り返す世界の中で、力のバランスと駆け引きの構図を改めて読み解く。※本稿は、千々和泰明『世界の力関係がわかる本 ――帝国・大戦・核抑止』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
「将来の危険」と「現在の犠牲」
どちらをとるのが低コストか
戦争終結のかたちは、「紛争原因の根本的解決」か「妥協的和平」かのどちらかの方向に転びます。
そしてそれを決めるのは、優勢勢力側が「将来の危険」と「現在の犠牲」のバランスをどうみるかです。
戦争では優勢勢力側が、交戦相手を生かしておくことで、のちのちこの敵ともっと大きな戦争を戦わなければならなくなるといった「将来の危険」を強く心配する場合があるでしょう。
その際、戦争を続けることによる自軍の「現在の犠牲」が小さいか、それを甘んじて受け入れられると考える場合は、優勢勢力側は「紛争原因の根本的解決」に向かって進むでしょう。
逆に、「現在の犠牲」が大きい割に、交戦相手と妥協することの「将来の危険」がそれほどではないということになれば、「妥協的和平」の道に向かうと考えられます。
第二次世界大戦で連合国は、ヨーロッパ中に戦争をしかけたナチスの「将来の危険」はきわめて大きいと考え、今血を流してでもナチスの息の根を止めてしまわなければならないと判断しました。