「結果を出す人」は、何を考えているのか? それを明らかにしたのが、プルデンシャル生命で伝説的な成績を残したビジネスアスリート・金沢景敏さんの最新刊『超☆アスリート思考』です。同書で金沢さんは、五輪柔道3連覇・野村忠宏さん、女子テニス元世界ランキング最高4位・伊達公子さん、元プロ野球選手・古田敦也さん、元女子バドミントン日本代表・潮田玲子さんほか多数のレジェンドアスリートへの取材を通して、パフォーマンスを最大化して、結果を出し続ける人に共通する「思考法」を抽出。「自分の弱さを認める」「前向きに内省する」「コントロールできないことは考えない」「やる気に頼らない」など、ビジネスパーソンもすぐに取り入れることができるように、噛み砕いて解説をしています。本連載では、同書を抜粋しながら、そのエッセンスをお伝えしてまいります。

「やる気」が出ない朝――超有名アスリートが密かに続けた“小さな習慣”とは?写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「やる気」に騙されてはいけない

「やる気」ほど信用できないものはない――。
 身も蓋もないことを言うようですが、僕はそう思っています。

 3日前にはやる気満々だったのに、今日は全然やる気にならないなんてこと、普通にありますよね? それどころか、朝のやる気が夜には跡形もなく消え去っていることだってある。それが、人間のリアルな姿だと思うのです。

 ところが、僕たちはしばしば、やる気に騙されます
 みなさんにも、こんな経験があるのではないでしょうか?

「10kgダイエットのために毎日腹筋100回やろうとして、3日で挫折」
「TOEIC800点を目標に、1日3時間の英語学習を開始するが、1週間もたずに挫折」

「ダイエットするぞ!」「TOEIC頑張るぞ!」と思い立った瞬間は、誰だってやる気に満ち溢れていますから、その勢いで、高い目標とハードな日課を設定してしまいがちですが、これが失敗のもとになります。

 もちろん、ダイエット初日は張り切って走るでしょう。
 だけど、2~3日も走れば疲れも溜まってきますから、やる気が下がっていくのが自然の成り行き。そうなると、「毎日1時間走る」というハードな日課をやり遂げるのが、とんでもなく過酷なことに見えてきます。それで、あっさりと挫折。やる気が原因で挫折するという、皮肉な結果を招いてしまうのです。

 それだけではありません。
 さらに問題なのは、自分が立てた目標であるにもかかわらず、あっさりと挫折してしまうと、「俺は意思の弱い、ダメな人間だ……」などと、自己効力感が下がってしまうことです。

 自己効力感が下がれば、さらにやる気が落ちます。下手をすると、ダイエットや英語学習に対する挑戦意欲を失うだけではなく、人生そのものに消極的になってしまうかもしれません。実に恐ろしいことではないでしょうか?

「やる気」が出ないときに、トップアスリートはどうするか?

 では、どうすればいいのか?
 僕がいつも思い出すのは、元テニスプレイヤーの伊達公子さんに聞いた話です。

 伊達さんといえば、女子テニス世界ランキング第4位までのぼり詰めたレジェンド。その輝かしい栄光の陰では、世界中のライバルが舌を巻いて逃げ出すと思われるほど、凄まじい練習量をこなしていらっしゃいました。

 ところが、その伊達さんですら、毎朝、心のなかでは葛藤があったそうです。
 練習を休みたいと思う「弱い自分」と、そんな自分を励ましたり、叱ったりする「強い自分」がいつも引っ張り合いをしていたのです。もちろん、ほとんどの場合は、「強い自分」が引っ張っていってくれたそうですが、どうしてもやる気が湧かない日もあったと言います。

 そんなときのために、伊達さんが決めていたことがあります。
 とにかくテニスコートに行くことだけを自分に課すのです。

 テニスコートに行くことさえできればOK。そして1時間だけは打ってみる。それでもやる気が出なければ、今日は練習を休んだっていいと割り切るのです。

 ところが、実際にテニスコートに行くと、自然と気分が変わってきます。そして、軽く練習してみると、だんだんと気持ちが乗ってくる。気がつくと、いつもどおりの練習をやり遂げている自分がいるのだそうです。

月曜日の朝の“どんよりした気持ち”をどう解消するか?

 これは、みなさんも身に覚えがあるのではないでしょうか?
 誰だって、月曜日の朝には気分がどんよりして、「会社に行きたくないなぁ……」と思うことがあります。

 だけど、休むわけにもいかないので、「しょうがない、出社しよう」と心を決めて、ベッドから出て、顔を洗って、歯を磨いて……と行動をしているうちに、だんだんどんよりした気分も晴れていく。そして、出社したときには、「今日も一日、がんばるか!」という気持ちになっていることってありますよね?

 プルデンシャル生命時代の僕の場合であれば、お客様にテレアポをかけるのはとても気の重い仕事なので、どうしてもやる気になれないことがありました。

 そこで、「テレアポを仲間と一緒にしよう」と自分自身にアポを入れておいて、とにかくその日時には出社して、一本だけ電話をかけることを自分に課したりしていました。

 そうすると、仲間の手前、出社しないわけにはいきませんし、どんなに気乗りがしなくても、電話の一本くらいはかけられる。そんなことをしているうちに、なんとなくその気になってきて、予定どおりのテレアポをやり終えることができるわけです。

 おそらく、伊達さんも「とにかく、テニスコートに行く」ことで、それと同じステップを辿っていらっしゃったのだと思うのです。

行動するから、「やる気」が湧いてくる

 僕の理解はこうです。
 世界的なトップアスリートですら、どうしてもやる気が出ないときはある。

 そんなときには、「子どもでも100%達成可能な小さな行動目標」を設定して、それを達成することで自己効力感を上げる。自己効力感が上がると、やる気が出てくるから、次の「目標」に挑む意欲が湧いてくる。このような好循環を回すことで、心のコンディションを高めていくというわけです(図1参照)。

「やる気」が出ない朝――超有名アスリートが密かに続けた“小さな習慣”とは?

 この原理を活用すればいいのです。
 つまり、「10kgダイエットをする」という高い目標をもつこと自体はOKだけど、そのために、いきなり「毎日腹筋100回」というハードな日課を課すのではなく、まずは、最低限必要な小さな行動目標を設定することで、「初期ハードル」をグッと下げておくのです。

 たとえば、「毎日腹筋100回」ではなく、「毎日腹筋10回」ならばちょっと頑張ればできそうですよね。このように、自分でコントロール可能な最低ラインの行動目標を設定し、それを絶対に実行することを自分と約束するのです。

 ここでの最大のポイントは、やる気や能力やコンディションなどになるべく左右されず、やろうとさえ思えば必ず達成できることを「最低ラインの行動目標」に設定することです。

【NG】1日3時間の英語学習 ▼ 【OK】通勤電車で英単語帳を1日1ページ読む
【NG】毎朝6時起床で1時間読書 ▼ 【OK】朝起きたらスマホで電子書籍を開く
【NG】1試合で必ず1本ヒットを打つ ▼ 【OK】初球ストレートは絶対に振る

「小さな目標」を積み重ねて、夢のような境地に辿り着く

 このように、やろうとさえ思えば必ず達成できる行動目標を設定したうえで、この約束を守るという「小さな成功体験」を積み重ねることができれば、必ず自己効力感は上がっていきます。

 そして、この好循環を回し続けることができれば、途中で挫折することなく、一歩ずつ確実に「10kgダイエット」という高い目標に向けて歩み続けることができるはずなのです。

 もちろん、「毎日腹筋10回」という低い初期ハードルでスタートしても、徐々に実力がついてきた結果、「毎日腹筋20回」「30回」とハードルがどんどん上がっていくのは望ましいことです。

 ただし、このハードルが上がれば上がるほど、やる気が落ちたときに挫折するリスクは高まっていきます。しかし、そのときには、もう一度、自分でコントロール可能な最低ラインの行動目標に戻ればいいのです。伊達公子さんが、「とにかくテニスコートに行こう」としたように……。

 最後に、イチロー選手の有名な言葉を掲げて、この項目を終えたいと思います。
「目標は高くもたないといけないんですけど、あまりにも高すぎると挫折してしまう。だから、小さくとも自分で設定した目標を一つひとつクリアして満足する。それを積み重ねていけば、いつかは夢のような境地に辿り着く」

(この記事は、『超⭐︎アスリート思考』の一部を抜粋・編集したものです)

金沢景敏(かなざわ・あきとし)
AthReebo株式会社代表取締役、元プルデンシャル生命保険株式会社トップ営業マン
1979年大阪府出身。京都大学でアメリカンフットボール部で活躍し、卒業後はTBSに入社。世界陸上やオリンピック中継、格闘技中継などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。しかし、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じ、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命に転職した。
プルデンシャル生命保険に転職後、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRTの6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、AthReebo(アスリーボ)株式会社を起業。レジェンドアスリートと共に未来のアスリートを応援する社会貢献プロジェクト AthTAG(アスタッグ)を稼働。世界を目指すアスリートに活動応援費を届けるAthTAG GENKIDAMA AWARDも主催。2024年度は活動応援費総額1000万円を世界に挑むアスリートに届けている。著書に、『超★営業思考』『影響力の魔法』(ともにダイヤモンド社)がある。