物流業界は、トラックドライバーの残業時間の上限規制が導入される「2024年問題」が間近に迫っているほか、「ポストコロナ」時代に対応したサプライチェーンの構築、SDGsをはじめ「持続可能な社会」実現のための取り組みなど、依然として大きな課題が幾つも立ちはだかっている。そこで、日本を代表する老舗物流業界紙「カーゴニュース」の西村旦編集長に日本の物流市場の現状や今後について聞いた。
――物流業界で「2024年問題」が大きな課題になっていますが、どのようなものなのでしょうか。
西村旦編集長(以下、西村) 政府が進めている働き方改革の一環として、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に年間960時間という上限が課されます。つまり平均すると月間80時間までしか残業が認められないことになり、これを超えた場合は罰則が科されるという厳しい規制です。
ご存じの通り、物流業界ではドライバー不足をはじめとする労働力不足が深刻化しています。ただでさえ運び手が足りないにもかかわらず、さらにドライバー1人当たりの稼働時間が減ることになるため、「モノが運べない危機」の本格的な到来が懸念されています。こうした課題を総称して「2024年問題」と呼んでいます。
トラックドライバーという職種は一般に比べ「労働時間が2割長く、給与が2割低い」といわれています。ですから、労働時間短縮をはじめとする労働条件の改善は、トラックドライバーというエッセンシャル(生活の根幹を支える)な仕事の魅力を高め、将来的な担い手不足を解消していくために必要不可欠な取り組みです。しかし、短期的にはかなりの“痛み”を伴うことは避けられないかもしれません。
全国で約35%の荷物が運べなくなる!?
――具体的にはどのような事態が起きることが考えられますか。
西村 あるシンクタンクでは、ドライバーの拘束時間が短くなることで、日本全体で14.2%の輸送能力が不足すると試算しています。これは営業用トラックの輸送トン数にすると4億トンという膨大な数字です。また、別の研究機関の試算では、このままドライバー不足が進めば、30年に日本全体で荷物の約35%が運べなくなり、特に地方部でのトラック輸送の供給不足が深刻化するとしています。いずれにせよ、トラックは重量ベースで国内物流の9割を担っている基幹的な輸送機関です。そのトラック輸送が供給不足に陥れば、サプライチェーンや産業活動に深刻なダメージが及ぶことは明らかでしょう。
もう少し具体的なお話をすると、24年4月以降は、1人のドライバーが運転できる輸送距離は500キロメートル前後が限界になるといわれています。つまり東京~大阪間の輸送がぎりぎりで、それ以上の長距離を輸送する場合は、複数のドライバーによるスイッチ輸送や中継拠点を設けるといった対策が必要になってきます。当然、コスト上昇は避けられません。