――そうした状況にもかかわらず、荷主から収受する運賃水準が低いとの声を聞きます

全国で35%の荷物が運べなくなる?物流の危機「2024年問題」にどう向き合うか西村 旦(にしむら・たん)
「カーゴニュース」編集長
1992年カーゴ・ジャパン入社。「カーゴニュース」編集部記者として、物流事業者、荷主企業、関係官庁などを幅広く担当。2011年代表取締役社長兼編集局長に就任。同年、幅広い交通分野での物流振興を目的として創設され、優良な論文などを顕彰する「住田物流奨励賞」(第4回)を受賞。

西村 運賃はエリアや荷物の種類、輸送単位などによって大きく変化するため、一概に言いにくい面があるものの、全般的に現在の運賃水準が低いことは確かです。しかし、今後は需給がタイトになることに加えて、ドライバーの待遇改善の原資にしていくために運賃上昇は不可避だと思います。本来であれば、24年に向けてもう少し早い段階から運賃を上げていく必要がありましたが、新型コロナによる需要低迷などで取り組みが遅れています。

――運賃値上げは一定程度避けられないとして、それ以外の対応策はあるのでしょうか。

西村 私は物流の持続可能性を将来にわたって確保していくためには、「労働力不足」「環境」「災害」という三つのリスクを乗り越える必要があると思っています。そして、この三つのテーマは相互に深く関連しています。例えば、労働力不足を乗り越えるための有効な手段の一つとして、トラックから鉄道や海運といった大量輸送機関へのシフトがありますが、これは同時にCO2排出量の削減に直結します。また、地震や風水害といった自然災害のリスクを低減していくためには、平時からトラック、鉄道、海運といった複数の輸送手段を活用する「輸送モードの複線化」が重要になります。つまり、目の前に迫った「2024年問題」を乗り越えていくことは、同時に環境や自然災害という課題を克服することにもつながるわけです。物流企業や荷主企業の皆さんには、そうした意識を持ちながら「2024年問題」という大きな課題を乗り越えていただきたいと思います。

――物流のデジタル化も大きなテーマですが、DX(デジタルトランスフォーメーション)に対してどのように向き合えばいいでしょうか。

西村 これまでの物流業は労働集約型の産業であり、大げさに言えば、労働力を無尽蔵に使うことで成り立ってきました。しかし、これからは限られたリソースを有効に活用して生産性を向上させる視点が大事になります。そのための手段としてデジタル化やDXは不可欠となります。今後は倉庫などの物流現場におけるロボット化に加え、ブロックチェーン技術などを使ったサプライチェーン・プラットフォームを構築し、そこで事業者間の協業や連携を促していくといった取り組みが加速度的に進んでいくと思います。また、そうした変革を実現していくためにも、ハード・ソフト両面にわたる標準化が欠かせません。

荷主企業は「物流」への意識を変えるべき

――荷主企業は「物流」に対する意識を変えていく必要がありますね。

西村 今回のコロナ禍では世界中でサプライチェーンの混乱が続き、物流の重要性が広く認識されたと思います。私は経済活動とは「モノづくり」「モノ売り」「モノ運び」という三つの基本要素で成り立っていると考えており、その意味で「物流」はまさに企業活動の根幹を成しています。今後「モノが運べない危機」がさらに顕在化していけば、物流企業と荷主企業の立場が逆転することもあり得ます。そのときに「選ばれない荷主」になってしまうと、自社の事業活動が円滑に進まない可能性も出てきます。物流の持続可能性を永続的に担保していくためにも、物流企業とのパートナーシップの在り方を、いま一度見直すことが大事だと思っています。

「カーゴニュース」:1969年10月の創刊から50年超にわたり「経済の中の物流」という視点から一貫した報道を行っている物流業界専門紙。物流報道の中に“荷主”という切り口を持った媒体として評価されている。主な内容は荷主企業の物流動向、行政の物流関連動向、トラック、倉庫、鉄道、海運、航空など物流企業の最新動向、物流機器、WMS(倉庫管理システム)ソフトなどの関連ニュース。週2回発行。