性的欲求低下障害に対する、神経ペプチド「キスペプチン」の効果は?Photo:123RF

 先進国全体で出生率が下がりつつある。歯止めをかけたい行政は、あの手この手を試しているが芳しくはない。

 生物として「治療」を期待する向きもある。その一つが性的欲求低下障害(HSDD)に対する、神経ペプチド「キスペプチン」の投与試験だ。

 キスペプチンは脳の視床下部から分泌される物質で、当初はがんの転移を抑制する作用があると思われていた。その後、強力な生殖腺刺激ホルモンの分泌促進作用があると判明し、がぜん、注目されるようになったのだ。

 英国の研究グループは、異性愛でHSDDの男性37人を2群に分け、キスペプチン、または偽薬を75分かけて点滴投与した後、薬剤の種類を入れ替え、少なくとも7日間をあけてから再び同じように薬剤を投与した。参加者は点滴の前後に精神的な状態に関する質問表に回答している。

 参加者の平均年齢は37.9歳、体格指数は24.9と中背。投与中の30~60分間は20秒ほどのセックス動画や、男女が健康的に運動しているだけの動画を交互に見ながら、磁気共鳴機能画像法(fMRI)による脳機能検査を受検。さらに、およそ8分間のアダルトビデオを見ながら、勃起レベルの検査も受けた。

 試験の結果、キスペプチンを投与された男性は性的な動画を視聴している間に、脳の性的な情報を処理する領域が有意に活性化し、HSDDが重症な男性ほど、活動性の上昇幅が大きかった。

 また、8分間のアダルトビデオに対する反応では、陰茎の勃起が偽薬群より有意に増大。主観的な性的興奮をつかさどる脳の領域も活性化していた。

 何よりキスペプチン投与群では、性的な幸福感が大きく上昇し、頬が赤くなるなどのポジティブな反応も多く見られた。一方、副作用は報告されなかった。

 男性の性欲低下には、テストステロンの投与試験も行われているが、結果は今ひとつだ。勃起不全治療薬で即物的に治療するのも味気ない。研究者は「キスペプチンは世界初のHSDD治療薬になる可能性がある」としている。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)