痩せたい、熟睡したい、賢くなりたい、ストレスに強くなりたい…。人類の生活環境が激変するなかで、現代人はかつてなく多様な悩みを抱えるようになった。本連載では、全米で話題沸騰の書籍『EAT 最高の脳と身体をつくる食事の技術』の内容から、“食に関する最新の知見”にもとづく有益な情報をお伝えしていく。（初出：2022年4月23日）
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「エクストラバージンオリーブオイル」を選ぶ
脳の働きを健全に保つには、脳のセキュリティシステムを通過できる主要な栄養素だけでなく、セキュリティシステムを支えるものも脳に提供したい。
神経炎症（脳内の炎症）、有害物質への暴露、栄養不足といったことがあると、しだいに脳のセキュリティシステムが正常に機能しなくなる恐れがある。
通過させるべきものを通過させず、通過させてはいけないものを通過させるといった機能不全が起これば、思考力や認知能力が悪化の一途をたどることになりかねない。
科学ジャーナル『ACSケミカル・ニューロサイエンス』に掲載された画期的な研究を紹介しよう。
その研究では、エクストラバージンオリーブオイル（EVOO）にはオレオカンタール（抗酸化および抗炎症の作用を有する化合物）が豊富で、脳のセキュリティシステムの機能を修復する力があるとされていた！
しかも、EVOOには脳のセキュリティシステムの健康状態を改善する効能が複数あるという。
オーバーン大学で実施された調査から、EVOOは神経炎症を軽減に導き、AMPK（AMP活性化プロテインキナーゼ）と呼ばれる有力な代謝タンパク質の活動を促進し、脳内のオートファジーのプロセスを改善するとわかった。
この3つの働きの効能について、順に説明しよう。
脳内の炎症はとりわけ厄介だ。脳で深刻な炎症が生じると、見当識障害、吐き気、意識の喪失をはじめ、何が起きてもおかしくない。
脳の慢性炎症は、記憶障害や視力障害をはじめ、アルツハイマーなどの認知障害の誘発に密接に結びついている。
だからこそ、脳内の炎症の抑制につながる食べ物や栄養素は本当に貴重だ。
AMPKは代謝を促すタンパク質で、脳に数々のメリットをもたらす。認知機能が低下すると、脳細胞に届くグルコースレベルの減少が見受けられる。
マサチューセッツ大学医学部大学院の調査によると、AMPKは脳のセキュリティシステムの通過にかかわるグルコースの運搬状況を改善し、神経細胞に運ぶ量を増やすことができる数少ない化合物だという。
この働きだけではまだ足りないという人のために、AMPKはオートファジーも促すとも言い添えておこう。
オートファジーは脳の自浄作用のひとつだ。私たちの身体には、損傷した細胞を一掃して「空間」をつくり、新しい健康な細胞を再生する仕組みが備わっているのだ。
脳内でオートファジーの機能不全が起こると、神経変性疾患の原因となりうる。
正常な代謝では、脳細胞から生み出された老廃物は除去しなければならない（要はゴミを出すようなものだ）。
脳に蓄積されると困る老廃物の代表格がアミロイドベータペプチドで、これはアルツハイマー病に関連性があるとされている有害なタンパク質だ。
そのアミロイドが凝集してできる「アミロイド斑」を脳から排除する後押しをしてくれるのが、オリーブオイルに含まれているオレオカンタールだという。
オートファジーの支援は非常に重要だ。というのは、『カレント・バイオロジー』に掲載されていた研究から引用すると、新しい記憶の形成にオートファジーが実際に「必要とされる」からだ。
要するに、優れた記憶力を保持するには、いいものを取り込むだけでなく、あまりよくないものを排除することも大切になるのだ。
また、『ザ・サイエンティフィック・ワールド・ジャーナル』には、オリーブオイルに脳のセキュリティシステムの透過性を抑制する力があると再確認する研究が掲載されていた。
加えて、EVOOに含まれる1価不飽和脂肪酸を十分に摂取すると、加齢に伴う脳内におけるミトコンドリアDNAの減少を防ぐ一助になることが、科学ジャーナル『フロンティアーズ・イン・セルラー・ニューロサイエンス』に掲載されていたデータから見て取れる。
EVOOは、脳をさまざまな角度から支援する脂肪が豊富な食品なのだ。では、どのくらい摂取すべきか？
ラッシュ大学医学部に属するヘルシー・エイジング研究所の調査によると、毎日24グラム以上のEVOOを摂取したグループは、15グラム以下しか摂取しなかったグループに比べてアルツハイマーを発症するリスクが80パーセント下がったという。
EVOOを毎日大さじ2～3杯摂取すれば、脳を守ってくれる上質な1価不飽和脂肪は十分に摂れる。
最高の脳と身体をつくる食事の技術
『EAT 最高の脳と身体をつくる食事の技術』（ショーン・スティーブンソン 著、花塚 恵 訳、価格1870円、ダイヤモンド社）
食事は人生の中心にあると言っても過言ではない。歩く、考える、寝る、そして何かを食べるときにも、人間はエネルギーを必要とする。
そのエネルギーを何から得ているか？ もちろん、食事からだ。「すべての動詞」は食事から得たエネルギーで行われている。
また、身体は「自分が食べたもの」から出来ている。脳も肝臓もなんでも食べたものでできている。
こういったことを考えると、食事次第で人間に関わるあらゆることの“質”を高めることができるとわかってくる。
『EAT 最高の脳と身体をつくる食事の技術』には、減量、快眠、ストレス、集中力、知性、人間関係、長寿などの多様な”悩み”に対して食事で解決する方法が掲載されている。
「情報が多すぎる！」と思う読者もいるかもしれない。だが、「人が望むもの」はそう簡単には叶わない。なにか1つの食材を食べ続けただけで、大きな変化が得られると考えるのは大きな間違いだ。
本書には、世界中の食材、調理法や人間の身体のメカニズムが、丁寧にエビデンスを含めて記されている。
何事もやみくもにやっても上手くいかない。確かな根拠に根ざした「食事の技術」を活用して、生産的にあなたの人生を変えていこう！
