控えたほうがいいのか? それとも積極的にとったほうがいいのか? 本当のところよくわからないという人が多いと思います。きちんと理解されていない「油」について、どんな油をとるべきなのか? とってはいけないのか? 最先端のエビデンスに基づいてお伝えしていきます。
「ここまでデータに基づいて書かれた健康習慣本は他にない」(統計家・西内啓)と評され、話題となっている健康になる技術 大全。本書の著者、林英恵さんが語る「健康になる技術」とは、健康でいるために必要なことを実践するスキルです。本連載では、「食事」「運動」「習慣」「ストレス」「睡眠」「感情」「認知」のテーマで、現在の最新のエビデンスに基づいた健康に関する情報を集め、最新の健康になるための技術をまとめていきます。今回は、「とっていい油、とってはいけない油」についてです。(写真/榊智朗)
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
*書籍『健康になる技術 大全』の「食事の章」はケンブリッジ大学疫学ユニット上級研究員 今村文昭博士による監修

病気になりたくなかったら、とらないほうがいい「油」とは?Photo: Adobe Stock

世界中の国々で販売禁止や規制が行われている油

 料理に欠かせない油ですが、油の中でも、長くとり続けることで健康を害する恐れがあるとして、世界中の国々で販売禁止や規制が行われている油があります。

 それがトランス脂肪酸です。

 トランス脂肪酸とは、油脂を加工する過程で人工的に作られた油のことです(*1)。マーガリンやショートニングなどの加工油脂と呼ばれるものを製造する際にトランス脂肪酸が生成されます。安価で長期間の保存が可能なため使いやすく、食感が良くなるなどのメリットがあります。このような理由から、食品会社や外食産業でよく使われてきました。

 また一般的な植物油を高温で処理する過程でも、調理時間や鮮度の問題で生成されると考えられており、スナックやフライドポテトにも含まれると考えられています。

心疾患のリスクを上げる可能性が報告されているトランス脂肪酸

 トランス脂肪酸は、過去の研究からも、心疾患のリスクを上げる可能性が報告されています(*2,3)。この流れを受けて、WHOでは、2023年までにトランス脂肪酸の根絶を目指すことを発表しています(*4)。

 世界では、2003年にデンマークが世界で初めて工業的なトランス脂肪酸を含んだ製品の販売を禁止し、ヨーロッパやアメリカ・カナダをはじめとする国で様々な規制が行われています(*5,6)。

 日本では、特に政府主導での規制は行われておらず、食品会社による自主的な規制の推進に止まっています(*7)。背景には、日本人の平均的なトランス脂肪酸の摂取量が、WHOの基準値よりも低いことが理由のようですが、安心はできません(*7,8)。

 日本人を対象とした研究では、調査対象の約25%の女性(特に都市部に住んでいる30-49歳の女性)と、約6%の男性のトランス脂肪酸摂取量がWHOの基準値を超えていることが報告されています(*9)。

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 トランス脂肪酸が比較的多く含まれている食品には、マーガリン・ショートニング、ファットスプレッド(マーガリンの一種で、油脂の割合がマーガリンよりも少ないもの)、クッキー、パイ、ケーキなどのビスケット類・スナック菓子などの菓子類・クリームなどの洋菓子、揚げ物などがあります(*10)。

 データによると日本人の大半は、懸念すべきほどのトランス脂肪酸はとっていませんが、日頃からこうした食品を多く食べている人は、エネルギー摂取量(いわゆる「カロリー」)を増やすばかりで栄養価も低いため、注意が必要です。

【参考文献】

*1 厚生労働省.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書. 健康局健康課栄養指導; 2020. [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf.
*2 Souza RJd, Mente A, Maroleanu A, Cozma AI, Ha V, Kishibe T, et al. Intake of saturated and trans unsaturated fatty acids and risk of all cause mortality, cardiovascular disease, and type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of observational studies. BMJ. 2015;351:h3978.
*3 Mozaffarian D, Katan MB, Ascherio A, Stampfer MJ, Willett WC. Trans fatty acids and cardiovascular disease. N Engl J Med. 2006;354(15):1601-13.
*4 World Health Organization. REPLACE trans fat-free: an action package to eliminate industrially-produced trans fat from the global food supply. 2021. [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://www.who.int/teams/nutrition-and-food-safety/replace-trans-fat.
*5 Liu AG, Ford NA, Hu FB, Zelman KM, Mozaffarian D, Kris-Etherton PM. A healthy approach to dietary fats: understanding the science and taking action to reduce consumer confusion. Nutr J. 2017;16(1):53.
*6 Food and Drug Administration. Final determination regarding partially hydrogenated oils(removing trans fat). [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://www.fda.gov/food/food-additives-petitions/final-determination-regarding-partially-hydrogenated-oils-removing-trans-fat.
*7 農林水産省. 各国・地域における脂質・トランス脂肪酸の摂取量. 消費・安全局食品安全政策課; 2019. [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/intake/intake.html.
*8 厚生労働省. トランス脂肪酸に関するQ&A. [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/ stf/seisakunitsuite/bunya/0000091319.html.
*9 Yamada M, Sasaki S, Murakami K, Takahashi Y, Okubo H, Hirota N, et al. Estimation of trans fatty acid intake in Japanese adults using 16-day diet records based on a food composition database developed for the Japanese population. J Epidemiol. 2010;20(2):119-27.
*10 内閣府. トランス脂肪酸のリスク評価について. 食品安全委員会; 2014. [cited 2021 Dec 18]. Available from: https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20141128ik1&fileId=030.

(本原稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』から一部抜粋・修正して構成したものです)

病気になりたくなかったら、とらないほうがいい「油」とは?林 英恵(はやし・はなえ)
パブリックヘルスストラテジスト・公衆衛生学者(行動科学・ヘルスコミュニケーション・社会疫学)、Down to Earth 株式会社代表取締役、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任准教授、東京大学・東京医科歯科大学非常勤講師
1979年千葉県生まれ。2004年早稲田大学社会科学部卒業、2006年ボストン大学教育大学院修士課程修了、2012年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程を経て、2016年同大学院社会行動科学部にて博士号取得(Doctor of Science:科学博士・同学部の博士号取得は日本人女性初)。専門は、行動科学・ヘルスコミュニケーション、および社会疫学。一人でも多くの人が与えられた寿命を幸せに全うできる社会を作ることが使命。様々な国で健康づくりに携わる中で、多くの人たちが、健康法は知っていても習慣づける方法を知らないため、やめたい悪習慣をたちきり、身につけたい健康法を実践することができないことを痛感する。長きにわたって頼りになる「健康習慣の身につけ方」を科学的に説いた日本人向けの本を書きたいと思い、『健康になる技術 大全」を執筆した。
2007年から2020年まで、外資系広告会社であるマッキャンヘルスで戦略プランナーとして本社ニューヨーク・ロンドン・東京にて勤務。ニューヨークでの勤務中に博士号を取得。東京ではパブリックヘルス部門を立ち上げ、マッキャンパブリックヘルス・アジアパシフィックディレクターとして勤務後、独立。2020年、Down to Earth(ダウン トゥー アース)株式会社を設立。社名は英語で「実践的な、親しみやすい」という意味で、学問と実践の世界を繋ぐことを意図している。現在は、国際機関や国、自治体、企業などに対し、健康に関する戦略・事業開発、コンサルティングを行い、学術研究なども行っている。加えて、個人の行動変容をサポートするためのライフスタイルブランドの設立準備中。2018年、アメリカのジョン・ロックフェラー3世が設立したアジアソサエティ(本部・ニューヨーク)が選ぶ、アジア太平洋地域のヤングリーダー“Asia 21 Young Leaders”に選出。また、2020年、アメリカのアイゼンハワー元大統領によるアイゼンハワー財団(本部・フィラデルフィア)が手がける、世界の女性リーダー“Global Women’s Leadership Fellow”に唯一の日本人として選ばれる。両組織において、現在もフェローとして国際的な活動を続ける。
『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(小学館)をプロデュース。著書に、『健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社)、『それでもあきらめない ハーバードが私に教えてくれたこと』(あさ出版)がある。
https://hanahayashi.com/