アップルはまだ、あなたの財布代わりにはなれていないが、その野望を断念したわけでもない。今回打ち出した新たな戦略は、成功に急接近する可能性を秘める。ティム・クック最高経営責任者(CEO)はかつて、アップルが「買い物の在り方を永遠に変える」と宣言した。このクック氏の強気の発言は「iPhone 6(アイフォーン6)」という、アップルにとって数年ぶりの目玉商品の投入にあわせて行われたものだ。それから8年が経過したが、財布からクレジットカードを取り出したり、伝票に番号を入力したりして支払う人がなお大半を占める。もっとも、時価総額で世界トップのアップルはあきらめていない。「BNPL(バイ・ナウ・ペイ・レーター)」と呼ばれる後払いサービスや、高金利の預金サービスといった新たな金融サービスを相次ぎ導入。マネーの世界へとさらに前のめりになっている。米国の消費者向けローンと小売売上高は年間10兆ドル(約1340兆円)を超える規模で、スマートフォン販売よりも依然として稼ぎの大きい数少ない市場の一つだ。折しも、足元では銀行やデジタル決済サービス業者を巡って不安がくすぶっており、野心的な計画を実行に移すアップルにとっては、十分に機が熟したタイミングと言えそうだ。