米国連邦航空局が2012年7月に発表した民間宇宙旅行マーケットの予測によると、今後10年間でこのビジネスは1280億円の需要を生み出し、宇宙旅行に参加する人は世界で1万人を超えるそうである。

「宇宙? それより温泉旅行に行きたいよ」と思う方もいるだろう。それもそのはず。これまで話題になった宇宙旅行の多くは数十億円もかかる。庶民にとっては「しょせんは夢のまた夢」と思えたとしても、しかたがない。

 ところが、だ。そんな宇宙旅行に申し込んだ型破りの日本人がいた。しかも、大富豪ではない、一介のサラリーマンで。

徹夜続きの毎日、ランチはほぼ同じ…
「単調な毎日から抜け出したい!」

 出会ったのは、とある勉強会。講師役として登場した彼はなぜかスーツ姿ではなく、つなぎ服を着ていた。見た目は航空機の整備士などが着るアレに近い、「宇宙旅行用のスーツ」である。

「みなさん、宇宙に行きたいですか?」

 聴衆に向かってそう呼びかけるものの、集まったビジネスマンの反応はなぜか今ひとつ。しかし、それにもめげず、宇宙がいかに夢にあふれた場所か、そして、宇宙旅行がいかに素晴らしいビジネスチャンスをもたらすものであるかを、かなり真剣に、時に前のめりになって語り続けるその熱き姿勢に、筆者は心打たれた。

 大富豪でもないのになぜ、彼は宇宙に行こうなんて思ったのだろうか?

 SFマニアでもなさそうなのに、彼はどうしてこんなに宇宙を愛しているのか?

 宇宙というよりも彼自身の生き方に俄然興味が涌き、早速、取材を申し込むことにした。

 改めてご紹介すると、彼の名は稲波紀明さん(35歳)という。弁護士や社労士、司法書士などいわゆる「士業」のコンサルタンティングを手がける一方、世界でも稀な「宇宙コンサルタント」を目指し、日夜、努力を続ける船井総合研究所の社員である。

 稲波さんが宇宙旅行に申し込んだのはかれこれ8年前、2005年のことであった。当時、彼は外資系のIT企業でエンジニアをしていた。

 クライアントの関係もあり、勤務地は生まれ故郷の愛知県。仕事で忙しく、徹夜続きの毎日が続いた。息抜きのランチで入る店も代わり映えせず、せいぜい曜日によって順番が変わるくらい。充実感がないとは言わないまでも、ストレスは確実に溜め込んでいた。

「なんとかして、この単調な毎日から抜け出したい」と思っていた時だという。仕事に疲れて何気なくネットサーフィンをしていたら、あるニュースが目に留まった。

 (ん? 宇宙旅行がいよいよ実現?)

 読んだ瞬間、「これだ!」と確信した。

「これなら地球を脱出できる」と。