エロス資本をマネタイズする女性の選択には「経済的合理性」がある

 女性のエロス資本は思春期から目立つようになり、10代後半から20代前半で最大になり、30代半ばでほぼ消失する。このことは女性なら誰でも知っていて、さまざまなかたちで資本のマネタイズを試みている。

 もっともシンプルなマネタイズが風俗業で、「パパ活」や「援交」などの新奇な社会現象は、エロス資本を前提としてしか理解できない。アダルトビデオ(AV)に出演したり、風俗業に従事したりするのが、一般的には高卒や高校中退の女性に多いのは、学歴が低いことで人的資本が小さく、その結果、総体的にエロス資本の比重が大きくなるからだろう。そのように考えれば、一見、思慮に欠けたり無謀に見えたりしたとしても、彼女たちの選択には「経済合理性」がある。

 AV出演の背景には貧困や性暴力があるとして、「AV出演被害防止・救済法」が成立した。悪質な業者が女性を搾取するのを防がなければならないのは当然だが、その一方で、世の中にはエロス以外にマネタイズできる資本をもたない女性がたくさんいる。この事実から目を背け、いたずらに「差別」を糾弾しても、問題はなにも解決しないだろう。

 本書ではエロティック・キャピタルの詳細には立ち入らないが、女性の人生に大きな影響を与え、結果として男性の人生をも左右するこの「資本」について、今後、女性の研究者を中心に議論が進むことを期待したい。

※この記事は、書籍『シンプルで合理的な人生設計』の一部を抜粋・編集して公開しています。

橘玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。