「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!

健康資本とエロス資本

 わたしたちは誰もが、生きるために、あるいは他者の評価を獲得するために、人的資本を労働市場でマネタイズしている。このように考えると、人的資本の重要なサブジャンルとして2つの資本があることがわかる。それが「健康資本(ヘルス・キャピタル)」と「エロス資本(エロティック・キャピタル)」だ。

 健康資本については、わざわざ説明するまでもないだろう。身体的・精神的な不調をきたせば働くことができなくなり、人的資本はゼロになってしまう。こうして現代社会では、身体や精神を最適状態に維持する「フィットネス」がますます重要になっている。

 ちょっと考えればわかるように、人的資本は、働ける期間が長ければ長いほど大きくなる。これが「生涯現役」戦略だが、そのためには健康寿命を延ばさなくてはならない。

 健康資本については「病気にならない生活習慣」や「メンタルヘルスの整え方」など大量の本が出ていて、ここであらためて解説する必要はないだろうが、エロス資本についてはこれまでほとんど取り上げられることがなかった。誰もがその存在に(うすうす)気づいていながらも、女性の性的な魅力について述べることがポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)に反すると思われたからだろう。

人的資本には、「健康資本」と「エロス資本」があるイラスト :ssstocker / PIXTA(ピクスタ)

 だが、イギリスの女性社会学者キャサリン・ハキムによってようやくこのタブーが破られた。従来のフェミニズムは、若い女性が売春や風俗で自らのエロス資本をマネタイズすることを「女性差別」として否定してきたが、これではエロスという稀少な資本を(愛の名のもとに)男に無料で提供すべきだということになってしまうと、ハキムは指摘したのだ。