「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】がんは、3段階の悪化ルートをたどるPhoto: Adobe Stock

がんそのもので亡くなる人は、少ない

 みなさんは、意外に思われるかもしれませんが、がんという病気は、がんそのものでお亡くなりになることは実は少ないのです。

 多くの患者さんは、がんによって引き起こされる悪液質と呼ばれる状態になり、徐々に体が衰弱し、お亡くなりになるのです。

 具体的には、食欲不振により栄養状態が低下し、微熱など全身の炎症の症状が増悪し、筋肉が細くなるサルコペニアが引き起こされ、体が動かせなくなります。

 悪液質は、炎症の度合いや症状によって、3段階の悪化ルートをたどると考えられています。順に「前悪液質」「悪液質」「不応性悪液質」となります。

 それぞれの段階は、次のような定義になります。

 ①前悪液質……食欲不振や5%未満の軽度の体重減少
 ②悪液質……食欲不振・炎症が進行し、明らかに筋肉が落ち、5%以上体重が減りだす
 ③不応性悪液質……治療に反応せず、コントロールができなくなる

 もちろん、①の前悪液質の段階でがんをうまく治療できれば、十分に長生きが期待できます。

 しかし、③の不応性悪液質になると、かなり厳しくなります。なかなか手だてがないのが実情です。

 ですから、②の悪液質になった患者さんに対して、前悪液質の状態に戻してあげられるような治療が望まれているのですが、現在の医療では難しいのが実情です。

 最近の研究では、アナモレリンという薬が、食欲を導く消化管ペプチドホルモンであるグレリンのような作用を示すことで、胃腸の動きがよくなり、体重減少の改善が起こることが期待されています。

 ただし、残念なことに、肺がん・胃がん・すい臓がん・大腸がんの四つでしか適応が見られていません。さらに、アナモレリンでは抗炎症効果は強くありませんし、筋力低下やがんによる全身倦怠感は改善しません。

前悪液質状態をキープすれば、
がんと共存できる可能性がある

 私たち医療者は、これまで、がんになれば、完全に治療することばかりを考えてきました。

 しかし「前悪液質状態」が維持できるのであれば、がんで死ぬ確率は低下しますし、日常の生活でも、症状すらほとんど出現せず、仕事をこなし、趣味を楽しむことができます。

 ということは、様々なリスクがあるがん治療を選択して、がんを取り除かなくても、「前悪液質の状態をキープする」という作戦に切り替えればいいのではないか

 少量の抗がん剤とがんケトン食療法を併用すれば、がんが進行しても、私たちの想像以上に患者さんたちが生きていくことができるのです。

 実際に、多くの患者さんが、その可能性を示しています。

(※本稿は『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』の一部を抜粋・編集したものです)

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売に。