「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】ケトン食療法は、がん治療の効果を最大化する可能性があるPhoto: Adobe Stock

ケトン食療法は、
がん治療の効果を最大化する可能性がある

 がんケトン食療法に関して注意すべき点は、基本的にケトン食だけでは、抗がん剤のようにがん細胞の増殖を抑える作用は強くないということです。

 世界的にもマウスの実験で様々に検討されていますが、ケトン食だけでは、がんそのものを小さくすることは難しいと思われます。

 しかし、抗がん剤や放射線治療と併用すると、ケトン食は驚くような効果を発揮するのです。これも様々なマウスの実験でわかっていることです。

 ただ、いざヒトに応用するとなると、全くうまくいっていないのが、世界のケトン食療法の状況なのです。

 なぜかと言えば、ヒトはマウスのように、黙ってケトン食を食べてくれないからです。ヒトそれぞれに食事の好み、好き嫌いがあって、さらにケトン食をいつまで続けたらいいのか、糖質を制限すべき量も期間も決まっていません。

 世界的にも、何とかがんケトン食療法を患者さんに続けてもらおうとするのですが、なかなか続かないのです。ハードルを下げると継続するが、血中のケトン体は上がらない。ハードルを上げると今度は、血中のケトン体は上昇するが、ケトン食が続かなくなります。いつまで我慢すべきかはっきりしていないので、患者さんは途中で挫折してしまうのです。

 そういう状況の中で、私の考えた方法は、すでに示したように、糖質を制限すべき量や期間も明らかに示しています。

 その方法に従えば、血中の総ケトン体の値が数千μmol/Lレベルまで上昇し、継続率も高く、想像以上の臨床効果が得られています。世界が待ち望んだがん患者におけるケトン食の方法論だったのです。

ケトン食は、あらゆるがん治療との併用が可能

 さらに、予想外のことがわかってきました。私たちのケトン食療法の研究では、あらゆるがん治療との併用が可能となっています。結果的に、手術・放射線・抗がん剤治療などの様々ながん治療と、ケトン食の併用で効果が期待できることがわかってきました。

 特に最先端の分子標的薬と併用し、著効を示した症例が蓄積されています。

 これは非常に朗報で、一般的な細胞毒性の強い抗がん剤は、患者さんに苦痛を強いることも多いのですが、分子標的薬のほうが、患者さんの負担は比較的軽いのです。

 たとえば、ある50代の男性は、健診で左胸水を指摘され病院で精査したところ、肺腺がんⅣ期と診断されました。がんの増殖にかかわる遺伝子が陽性であったため、薬の内服が開始され、がんケトン食療法も希望して、来院されました。

 結果は劇的でした。ほぼ寛解のレベルまでがんは縮小し、4年以上経過していますが、現在もお元気に過ごされています。

 その他に、がんケトン食療法と相性がいいのは、「ラジオ波(約450キロヘルツの高周波)」による治療ではないかと考えています。ラジオ波による治療は、正確には、経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)といいます。

 超音波で観察しながら、皮膚を通して電極針をがんの中心に挿入し、ラジオ波という電流を使って、針の周囲に熱を発生させ、がんを焼いて壊死させる方法です。

 ラジオ波による肝臓にできたがんの治療は、2004年から日本でも保険適応手術として認められています。手術と比較すると、患者さんの負担は、かなり少なくて済みます。

 実際に、何人かの患者さんは、併用することで良好な経過をたどっています

 そうした治療法は、今後も続々と生まれてくるでしょうから、私たち医師は固定観念に縛られず、あらゆる治療法との組み合わせを検討していくべきだと思います。

(※本稿は『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』の一部を抜粋・編集したものです)

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売に。