内田 樹(著),白井 聡(著)
定価979円
(朝日新書)
ところが、90年代バブルがはじけてからこの自由な雰囲気が失われた。能力主義、成果主義、評価活動ということが言われ出した。勘違いしている人が多いんですけれど、「能力主義・成果主義」ということがうるさく言われるようになったのは、経済成長が止まってからなんです。能力の発揮のしようがなく、成果の上げようがなくなってから、そういう言葉がうるさく口にされるようになった。それ以前の「いけいけ」の時代はみんな好き勝手にやっていたんです。誰も能力や成果を査定なんかしなかった。だって、評価や査定なんかいくらやってもイノベーションは起きないし、売り上げが増えることもないんですから。
でも、経済成長が止まってパイが縮み出したら「パイの取り分」について厳密な基準が必要だと言い出すやつが出てきた。大学でも「評価」という言葉が言われるようになったのはバブル崩壊後です。パイが縮んで来たので、隣の人間の分け前が「もらい過ぎ」に見えてきたんでしょう。貢献度や生産性に基づいて評価して、その格付けに基づいて資源を傾斜配分するという「新しいルール」が導入された。ある時期から「公務員叩き」や「生活保護受給者バッシング」が始まって、「もらい過ぎ」をむしり取るということに人々が熱中するようになった。もちろん、給料を下げても、働くモチベーションが下がり、能力のある人が逃げ出すだけで、何一つ価値あるものは生まれないわけですけれども、それが社会的公正の実現であるかのように思い込んで、いまだに懲りずに同じことを繰り返している人たちがいる。そうやって人の足を引っ張っているうちに日本はここまで衰えたわけですが。
白井:査定主義は結局、減点主義になるのですよね。だから、思い切ったことをやって失敗して大減点されるよりも、何もしない方がよいという判断になります。当然ですよね。だから異次元金融緩和をやってみたところで全然景気浮揚しなかったわけです。金融緩和は、要するにカネを借りやすくする政策ですが、アニマル・スピリットが完全に枯渇しているので誰も借りない。
1950年東京都生まれ。神戸女学院大学名誉教授、昭和大学理事。東京大学文学部仏文科卒業、東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論など。神戸で哲学と武道研究のための私塾凱風館を主宰。合気道七段。『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)で第6回小林秀雄賞、『日本辺境論』(新潮新書)で第3回新書大賞、執筆活動全般について第3回伊丹十三賞を受賞。
1977年東京都生まれ。思想史家、政治学者。京都精華大学准教授。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。著書に『永続敗戦論─戦後日本の核心』(講談社+α文庫、2014年に第35回石橋湛山賞受賞、第12回角川財団学芸賞を受賞)をはじめ、『未完のレーニン─〈力〉の思想を読む』(講談社学術文庫)など多数。
※AERA dot.より転載