大学生学生の読解力が低下しているのは教育に問題がある(写真はイメージです) Photo:PIXTA

今、教育の現場では、あらゆる学習において、社会に出てからの実用性を重視する実学志向が強まっている。だが、基礎知識や教養、物事を深く考える習慣を身につけさせないのであれば、先の読めない変化の激しい時代を柔軟に生きることは困難だ。『教育現場は困ってる――薄っぺらな大人をつくる実学志向』(平凡社新書)の著者・榎本博明氏は、学校教育の在り方に警鐘を鳴らす。

英語の学力低下は、偏差値にして7.4

 いくら知識を詰め込んでも、現実生活に応用できなければ意味がないとのことから、知識偏重の教育からの脱却が唱えられ、さまざまな教育改革が行われてきた。2022年度からは、高校の国語の授業で生徒会の規約や自治体の広報、駐車場の契約書など実用文の読み方を学ばせるなど、実学志向は今後もっと強まりそうだ。

 実用性重視の教育にかじを切ったきっかけのひとつが、会話重視の英語の授業だった。1993年以降、英語教育を読解・文法中心から会話中心に転換してきたのだ。その結果、何が起こっているか。榎本氏は読解力や教養を身に付けられていないと指摘する。

 公立高校の入試問題について、20万人のデータをもとに、英語の学力の経年変化を検討した心理学者の斉田智里氏によれば、1995年から2008年の14年間、毎年一貫して英語の学力が低下していることが判明したという。学力の低下の程度は、偏差値にすると7.4という衝撃的な数字だ。たとえば、2008年の偏差値50は、1995年の偏差値42.6に相当することになる。

 こうした英語の学力低下のため、大学でも従来のような英語の文献を用いたゼミが成り立たないといった事態さえ生じている。日常会話はできても文章の読解ができないのだ。