「共創」による革新と共進化でデジタル革命の時代に社会的インパクトを生む

経済的価値から社会的価値まで、共創の持つ意義を問い直す

「誰もがネットワークでつながる端末を持つようになったとき、社会はどう変わると思いますか」

 この質問をきっかけに私たちは、高度にネットワーク化された社会はどう変わるのか、企業が生み出す商品や価値、イノベーションにどんな変化をもたらすのかについて議論を重ねました。 

 私たちが導き出した結論は主に二つです。

 一つは、さまざまなコンピューター端末およびそれを手にする人がデジタルネットワークでつながる中で、価値創造が民主化されるということです。ここでいう民主化とは、企業だけでなく顧客、従業員、サプライヤー、パートナーなどあらゆるステークホルダーが、価値創造に関与するようになることを意味します。

 もう一つは、新しいテクノロジーが出現し、価値創造の民主化が進むことによって、津波のようなディスラプション(創造的破壊)と不連続な変化を巻き起こし、価値創造が分散化されるということです。

共創の効率化、迅速化を 加速させた技術進化

「共創」による革新と共進化でデジタル革命の時代に社会的インパクトを生むベンカト・ラマスワミ 氏
ミシガン大学
ロス・スクール・オブ・ビジネス教授

ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネス教授。2004年、C・K・プラハラード博士との共著『The Future of Competition』(邦題『コ・イノベーション経営』東洋経済新報社、2013年)で、革新的なコンセプト「共創」を提唱。14年のフランシス・グイヤール氏との共著『The Power of Co-Creation』(同『生き残る企業のコ・クリエーション戦略』徳間書店、2011年)では、20を超える産業セクターでの共創の事例を紹介した。その他、『The Co-Creation Paradigm』(2014年、未訳)などの著書がある。

山田 “民主化”と“分散化”は「Web3.0」に共通するキーワードでもあります。ブロックチェーンなどの新たなテクノロジーの発達と分散型自律組織などネットワークのさらなる高度化により、分散型インターネットのWeb3.0の世界が具現化されたことで、社会や経済においても民主化と分散化が進み、多様な専門性を持つ個が集まって価値共創が加速される環境が生まれたということですね。

ラマスワミ おっしゃる通りです。私が2冊目の著書(『The Power of Co-Creation』<邦題『生き残る企業のコ・クリエーション戦略』>)を出した2010年当時は、モバイルコンピューティングやクラウドコンピューティングの大きな進化があり、価値の共創がより効率的かつ迅速に進むようになりました。

 こうした技術進化によって三つのシフトが起こりました。一つ目は、グーグルやアマゾン、アップルなどのデジタルプラットフォーマーの台頭です。そして、デジタルプラットフォーム上に大量のデータが蓄積され、新たなアプリが次々と開発されるようになりました。それが、二つ目のシフトです。

 三つ目のシフトは、スタートアップエコシステムの形成です。デジタルプラットフォームを活用することで、新たなアプリやサービスを迅速に開発できるようになり、ビジネスを立ち上げるのが容易になりました。スタートアップにリスクマネーを投じる資本家、技術や事業の面で連携する大企業などがエコシステムを形成し、より短期間に新たな価値が生まれるようになりました。

「共創」による革新と共進化でデジタル革命の時代に社会的インパクトを生む山田貴博 氏
アビームコンサルティング
代表取締役社長CEO

外資系コンサルティングファームでの日本、米国勤務を経て、アビームコンサルティング入社。総合商社、金融、通信、エネルギー、運輸を中心に幅広い業界で戦略策定、経営・業務・IT改革などを担った後、金融・社会インフラビジネスユニット長に就任。2016年取締役、20年代表取締役副社長COOを経て、23年4月より現職。

山田 共創の重要性が高まった背景として、企業が求める、そして求められる価値の定義が多様化したことも指摘できるのではないでしょうか。

 例えば、企業はESG(環境、社会、ガバナンス)やサステナビリティに対する積極的な取り組みと説明責任を強く求められるようになり、経済的価値と同時に複数のステークホルダーを巻き込み環境的価値、社会的価値を創出しながら、持続的に成長していくことを求められています。他方、経済的価値そのものも多様化し、クリエーターや芸術家などの個人が持つ創造力や文化的価値が経済的価値へと転換されてきています。

ラマスワミ 私たちが共創の概念を打ち出した当時に想定していたのは新たな経済的価値の創出でしたが、現在は環境的価値、社会的価値も欠かせない構成要素となっており、ご指摘のように価値の持つ意味が広がったといえます。

 共創の概念は、製品・サービスの革新から業務革新、事業戦略やビジネスモデルの革新に至るまで、ほとんどのタイプの革新に適用できるものです。

 ですから、企業は共創によってステークホルダーとの関係を強化し、連携を深めることで、社会的イノベーションと経済の発展を加速させ、企業価値全体を高めていくことが重要です。

 その意味で、私たちは従来とは異なる価値創造の世界に住んでいるといっていいでしょう。 

自社中心パラダイムがイノベーションを停滞させる

山田 スタートアップエコシステムの形成やオープンイノベーションの推進については、日本でも盛んに議論されています。それは、裏を返すと日本においてイノベーションが停滞しているという危機感があるからです。

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