かつて日本の花形産業だった家電業界が、窮地に陥っている。グローバル市場での強敵・米アップルや韓サムスンに打ち勝つためには、どんな戦略転換が必要なのか。日本の製造業の製品開発マネジメントに詳しい長内厚・早稲田大学ビジネススクール(大学院商学研究科)准教授は、グローバル市場を視野に入れた製品開発・販売が進んでいないことが、日本メーカーの大きな弱点の1つと指摘する。前回に引き続き、長内准教授に「日の丸家電復活」の条件をさらに深く聞いた。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

地味でも収益が安定する薄利多売製品
強いビジネスモデルが崩れたシャープ

――前回は、日本の家電メーカーが高付加価値戦略に依存しがちなことが、グログローバル市場での足かせになっているという分析を聞いた。従来日本企業は、より高付加価値の製品をつくれることが、自分たちの強みだと考えていた。もうそうした考え方は通用しないということか。

おさない・あつし
早稲田大学ビジネススクール(大学院商学研究科)准教授。1972年生まれ。東京都出身。京都大学大学院経済学研究科修了・博士(経済学)。主な研究領域はイノベーション・マネジメント、製品開発マネジメント。1997年ソニー株式会社入社。奇美実業グループ新視代科技股分有限公司(台湾)総経理室上席研究員(非常勤)、 ビジネス・ブレークスルー大学院大学客員研究員などを歴任し、2007年ソニー退社。神戸大学経済経営研究所准教授を経て、2011年より現職。

 それは、シャープの苦境を見れば明らかだ。シャープの液晶事業は過度に投資をしすぎてしまった。これには2つの意味がある。1つは、液晶が本格的な普及段階に入ったときに、早晩液晶ビジネスの利益率が下がることを予想し、液晶というコア技術のメンテナンス(新たな技術への入れ替え)をすべきだったのに、それができなかったということ。

 もう1つは、シャープの企業規模に不釣り合いなパネル製造に投資をしながら、パネルの外販を疎かにし、自社ブランド製品に頼り過ぎてしまったことだ。特に後者は、シャープの家電ビジネスのモデルを大きく変えてしまい、その影響は大きかった。

 従来のシャープの家電事業には、他社がやっていない高付加価値製品を先行して発売する一方、収益の下支えとなる製品を薄利多売するという、今の韓国メーカーに似た戦略があった。前者はスチーム・オープンレンジや液晶ビューカムなど、後者は単機能レンジや14インチ、21インチの丸型テレビなどだ。シャープの海外事業は、後者に支えられていた側面もあっただろう。