学生と通算1万時間飲んできた

内定者の発想 2009
上原 隆 著 1200円(税別)

 「これはちょっとただごとでは済まないぞ」と思うようになったのは、昨年の採用セミナーでのことである。

 私の主な仕事のひとつは、企業に所属する採用担当者として、自社の新入社員を採用すること。その一環として行われる会社開催のセミナーにおいて、不思議な現象が起こるようになった。「次は、採用担当マネジャーによる、就職活動の応援メッセージを送らせていただきます」といった紹介アナウンスが流れると、会場内で一部どよめきのようなものが起きるのである。しかも年に100回近く行われるセミナーのほとんどの回で、また、時期が後半になればなるほどそれが大きくなるのだ。

 どうしてなのだろう? 出席した学生に聞いてみると、先輩から、あるいは大学の同級生から、ゼミやサークルの友人から、さらには就活で出会った学生から、「話を聞くと元気になれるよ!」と紹介されたのだという。

 これまで私は、こうしたセミナーなどで顔を合わせる以外にも、いろいろなつながりで出会った学生たちと、就活についてコミュニケーションを交わしてきた。学生と飲んで語った時間だけでも通算1万時間。年間に出会う学生はおそらく2万人を超えていると思う。これは私が採用担当者だったから、というだけではない。大学を卒業して間もない頃から、どういうわけだか、私は就活という人生の岐路に立っている学生の応援を行っていたのだ。その数は年々増え、今年でのべ20万人に達した。

自分を低くみてしまう
“もったいない”学生たち

 毎年多くの就活生と接していると、有名企業から次々と内定を得ていく学生がいる一方で、能力はあるのに就活に萎縮して動けない学生も意外なほど多かった。

 でも、普通に会話をしていて、あるいは酒の席でコミュニケーションをしていると、そんなに自分を低くみないといけないような人物にはまったく思えないのだ。実力は兼ね備えているにもかかわらず、どういうわけだか就活になると自分が出せない。よって結果にもつながらない。結局、納得のいく社会人スタートが切れなくなってしまう……。そういう“もったいない”学生が、本当にたくさんいた。