小児がんは70~90%治癒も
希少がんゆえの厳しい課題
かつては「不治の病」と言われていたがん。しかし今では、治療の進歩や新たな治療法の登場によって「治る病」へと変化している。特に小児がんの10年生存率は70~90%に達しており、大人を含む全体の10年生存率が46%なのに比べてかなり高いことが、去る1月、国立がん研究センターの集計によって初めて明らかにされた。
さらに、診断から5年以降は生存率が低下しにくいことから、5年を超えれば長期生存の可能性も大人以上に高いことがわかった。これは、がんの進行が極めて速い反面、成人のがんと比較して化学療法や放射線療法の効果がかなり高く出るという小児がんの特性に加え、現場の医師らの涙ぐましい努力と工夫の賜物に他ならない。
ただ、国立成育医療研究センターの松本公一小児がんセンター長は複雑な思いを語る。
「こういうデータが出るのは間違いなくいいことです。ただしこのデータは、がん診療連携拠点病院等に指定されている大学病院や総合病院などの『院内がん登録』を集計したもので、こども病院のデータが抜け落ちています。完全なデータとは言えません」
院内がん登録は、国が指定するがん診療連携拠点病院等を中心に行われているもので、各施設でがんの診療を行ったすべての患者のデータを全国共通のルールに従って登録するもの。登録には、専門的な知識を身に着けた「がん登録実務者」が必要だが、配置されているのは大勢のがん患者を診ている施設に限られる。
成人で新たにがんを診断される人の数が年に約100万人もいるのに対し、年間2000~2500人と患者数が少ない小児がんでは、こども病院一施設あたり20人程度しかがん患者がいない施設も多いため「がん登録実務者」が配置されていないところも多い。それゆえこども病院のがん患者の一部は、院内がん登録のデータからは抜け落ちてしまうのだ。
また、10年生存率70~90%という数字は成人に比べれば素晴らしいが、日々小児がん治療に注力する松本医師は、生存率の高さよりはむしろ「10~30%がまだ命を落としている」ことに思いを向ける。「生存率を100%に高めて行きたい。そのための最大の課題は『ドラッグ・ラグ』『ドラッグ・ロス』の解決です。これもまた、患者数が少ないことが大きなネックになっています」