「心臓や肺は問題ないでしょう。ストレスでこのような動悸が現れることがあります。しびれや頭痛は、もしかすると首の骨の変形かもしれません。脳の血管も詳しく診たいのでMRIを予約して受けてください。」と言われた。その日は、薬も貰わずに自宅に帰った。

 Nさんは会社にいても妻のことが気かがりで、仕事が手につかなくなっていた。その日も、手のこわばりと関節の腫れを気にして近所の免疫内科に行っていた。リウマチの専門医として有名な医師を頼って、全国から患者さんが集まることを知っていたからだ。

 血液検査とレントゲン、簡単な問診を受けるだけでその日は帰ってきた。後日、検査結果を聞くため再び病院に行ったが、「異常なし」だった。

 MRI検査も妻に付き添うつもりで、会社に休暇届けを出していた。

 妻は、生まれて初めてのMRIに緊張していた。耳栓を渡され、説明を受けている時点で既に泣きそうになっていた。

 「具合が悪くなったら手元のボタンを押してください」という技師の説明も上の空だった。部屋に入って20分後、妻は青ざめた表情で検査室から出てきた

 「もうダメ。心臓が口から出そう」

 肩で息をしている妻を落ち着かせるために、ずっと手を握っていた。

 しかし、医師から告げられた言葉は、やはり異常なし。帰りの車で「何でいつも異常なしなの?手がしびれたり、関節が腫れたり、突然頭痛がしたり、ドキドキしたりするのに…!」

 妻は帰り車で2度目のパニック発作を起こしているようだった。

 Nさんの妻は不眠も訴えるようになった。

 「夜眠れない。でも心療内科や精神科には行きたくない」という妻を説得して心療内科も訪れた。

 医師からは「ストレスでしょう。軽い抗うつ剤を出しておきましょう」と言われた。

 「うつ病かもしれない」と思っていたNさんは薬の効果に期待した。しかし、期待していたほど症状は改善されない。家事もできずに床に伏せがちになっている妻を気遣い、毎日残業もせずに自宅に帰る日々が数ヵ月続いた。そしてNさん自身も看病疲れから、体力の限界が訪れた。