昨年の今ごろ、アーサー・メンシュ氏は30歳で、まだ米グーグルの傘下部門に勤めていた。当時は人工知能(AI)がSF以上のものとして人々の意識に定着し始めたころだった。それ以降、人間のような会話だけでなく推論さえもできる生成AIは、ここ数十年で最も話題となった技術的ブレークスルー(画期的発明)となった。そして、メンシュ氏がグーグル退職後に立ち上げたスタートアップ企業「ミストラルAI」は、設立から9カ月で評価額が20億ドル(約3000億円)強に達している。こうした変化の速さは、高度なAIシステムの構築および商業化に向けた活動を取り巻く熱狂――そして恐怖――を反映している。ミストラルAIは、AI競争の勝者は米国の巨大ハイテク企業の中から現れるという従来の常識に挑んでいる。工業学校時代の友人2人と同社を立ち上げたメンシュ氏は、巨大な規模は不可欠ではなく、米国が優位に立つとは限らないと考えている。