「うんざりする愚痴」と「笑える愚痴」は決定的に違います。
そう語るのは、これまでX(旧Twitter)上で8年間365日、毎日欠かさず大喜利のお題を出題し、累計で200万以上の回答を見てきた「坊主」氏だ。「IPPONグランプリ」「笑点」などの芸人さんが活躍する場がある一方、「ネット大喜利」「ケータイ大喜利」「ラジオのネタメール」など、一般の人にも大喜利に参加できる場は増え、いまや空前の「大喜利ブーム」である。
大喜利のように「斜め上の発想を出す」というスキルは、「面接での一言」「LINEでのうまい返し」「意中の相手を口説く言葉」「新企画のアイデア」などに使える“万能スキル”でもあるのだ。そんな大喜利について、世界で初めて思考法をまとめた話題の著書『大喜利の考え方』では、「どうすれば面白い発想が出てくるのか」「どんな角度で物事を見ればいいのか」などを超わかりやすく伝えてくれている。まさに「面白い人の頭の中」が丸わかり。そこで、この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、大喜利的な思考法を詳しく解説する。(構成/種岡 健)

「うんざりする愚痴」と「笑える愚痴」の決定的な違いPhoto: Adobe Stock

あなたの職場でしかわからないこと

「あるあるネタは、伝わりやすいものがいい」

 そのように言われます。
 ただ、伝わらないことが逆に面白さにつながるときもあります。
 つまり、「狭さ」が驚きに変わるということです。
 それが、「業界ネタ」です。

 みなさん、それぞれ何かしらの業界に所属しているでしょう。
 私も、「仏教業界」「お坊さん業界」にいます。

〈お題〉「お坊さん業界あるある」

 そこでしか知られていないコアなネタは、ここぞというときに使えます
 たとえば、次のような話です。

〈回答〉「仏教には、優しい言葉を使おう、という意味で『不悪口』という概念があります。卑猥な言葉を言っている人に『ふあっく』と声かけをしましょう

 これは、英語がわかる人にウケるネタです。
「不悪口」が生まれたときには、まさか海の向こうでまったく逆の言葉が生まれるとは思いもよらなかったでしょうね。

 そんなふうに、どんな業界にも、特有の言葉や話があります

「内輪」で話す恋愛ネタ

 みなさんの業界ネタを探してもらうために、私の「お坊さん業界」のネタをいくつか紹介したいと思います。

 先ほどの「不悪口」と同じように、業界用語に注目してみましょう
 お坊さん業界には「合掌」というものがあります。
 手のひらを合わせる仕草です。

〈回答〉「お坊さんの結婚式でよくあることですが、余興で司会の人が、『みなさんで合唱をお願いします』と言ったときに『合掌』してしまう坊さんが必ず何人かいます」

 これは事実です。特に、老僧に多い印象です。

 あるいは、「内輪で飲んでいるときに話すようなもの」もネタになります。
 たとえば、お坊さん業界には「寺の婿」問題があります。

〈回答〉「お寺さんで男の子が生まれなかった家系から、『ウチの3人娘、誰を選んでもいいぞ』というお見合いの誘いが来ます。お寺の次男や三男によく声がかかります」

 というような話は、酒の場ではグチとして話しがちです。
 こういう結婚や恋愛の話題なら、業界と関係ない人でも「そうなんだ~」と面白がってくれます

〈回答〉「寺の娘は、実家がお寺であることを隠して彼氏をつくりがち。その後、その彼と結婚する頃に正体を明かす。そうすると、彼はお坊さんにならざるを得ないのです」

 お寺に嫁いだり、婿入りするのは大変なんですよね。
 まあ、「檀家のいない観光寺」や「お手伝いさんを雇っているような経済力があるお寺」であれば、問題ないでしょう。
 檀家との付き合いは、しんどいですからね。
 お坊さんにとって檀家さんというのは大事な「顧客」であり、お布施をくれる「ユーザー」なのです。

どんな業界も「構造」は同じ

 ということで、あなたの業界ネタを素材としてストックしておきましょう
 ノートの真ん中に「〇〇業界あるある」と書き、仕事仲間と飲み会でどんな話をするのかを書き出してみてください。

 飲み会で思い出しましたが、お坊さんは、自分の近所で飲み歩くことをしません。
 飲みに行くなら隣の街へ行きます。
 なぜなら、「檀家さんがいるかもしれないから」です。
 ベロベロに酔っ払っているところを見られると信用をなくしちゃいますからね。
 それくらい「檀家さん命」なのです。

 坊さんの合コンや飲み会は「友引前」、通称「ともまえ」「びきまえ」が多いです。
 友引には葬式がないため、お通夜がないんですよね。お通夜がないから、飲み会ができます。

 また、自分で言うのもなんですが、お坊さんの合コンは、けっこう人気です
 お坊さんと付き合ってみたい女性は意外と多いんですよね。

 さまざまな業界ネタを見て感じることですが、結局、どんな業界でも「構造は似ているな」と思います。
 たとえば昔は、古参のお坊さんが後輩の修行僧に手をあげることが当たり前でした。

 しかし、時代が変わって、そういう指導は減りました。
 そして、私のような中堅のお坊さんは、下の世代からナメられることが増えたのです。
 指導しなくてはいけないのに、強く叱ることができません。

 この話をすると、どの業界の人にも、「わかる!」と言われます
 だから、あなたが同僚とグチを言っているような話も、ぜひ披露してほしいのです。

「仕事のつらさ」を笑い飛ばそう

 仕事の中で、悔しい思いをしたことはありませんか。
 私はあります。
 先日、檀家さんの家にお経を読みに行ったとき、玄関で4歳くらいの女の子に、「やりたくなさそうな顔してる!」と言われて焦りました。
 小さい子は心の中を見抜くのでしょうか。
 たしかに、その檀家さんはお布施が少なくて、私は「やりたくないな~」と思っていたのです。
 いくらお坊さんといえど、お布施が多いほうがテンションが上がります

〈回答〉「お布施が多いと『長めにお経を読もう』『気持ちを込めよう』と思うもの。お坊さんといっても、ただの人間です」

 こんなふうに、自虐ネタに仕上げてしまいましょう。
 働いていたら、つらいことがたくさんありますから。
 笑ってもらって成仏させるに限ります

 では最後に、火葬場でのあるあるを紹介しておきましょう。

〈回答〉「火葬場でよくご遺体と一緒に燃やされる写真があります。『氷川きよし』の写真です。葬儀屋さんはこう言います。『ええ、毎日のように焼かれていますよ』と」

 亡くなったおばあちゃんが氷川きよしさんのファンだったのでしょう。
 孫がそっと写真を添えてくれるんでしょうね。
 氷川きよし本人も、きっと喜んでいることでしょう。

 以上のように、業界ネタを仕込んでおいてください。
 ちょっとした自己紹介でも使えますし、他業界の人との意外な共通点も見つかるかもしれません。

(本稿は、『大喜利の考え方』から一部抜粋した内容です。)

「うんざりする愚痴」と「笑える愚痴」の決定的な違い坊主(ぼうず)ポケモンGOのやりすぎで坊主バーをクビになった僧侶
日本一の大喜利アカウント
X(旧Twitter)は、2024年1月現在で190万フォロワーを突破。元々、「2ちゃんねる」が大好きで、「匿名で面白い回答をする人がたくさんいる!」ということに衝撃を受け、Xでお題を出し続ける。これまで8年間365日、毎日欠かさず大喜利のお題を出題。累計で2万以上のお題を出し、数百万以上の回答を見てきた。昼は僧侶として働く、正真正銘の「お坊さん」でもある。また、都内に「虚無僧バー」「スジャータ」というBARを2軒経営しており、誰でも1日店長ができる店として、さまざまな有名人やインフルエンサーなどに店長を任せている。BARの名前の由来も仏教からとられている。『大喜利の考え方』(ダイヤモンド社)が初の著書。