『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』が、若いビジネスパーソンや学生の間で静かな話題となっている。競争に疲れた心を癒してくれる本と反響を呼んでいる。2度目の増刷を記念して、著者の阿部広太郎さんの対談を企画した。お相手は『私の居場所が見つからない。』が若い女性の生きづらさを表現していると話題になっている川代紗生さん。2つの作品から浮かび上がるキーワードは、「人生の選択」「挫折と後悔」「自分の居場所」「承認欲求」「自己肯定感」など、どこか通じるものがある。予想通り、“同志”の対談は大いに盛り上がった。(構成/亀井史夫 撮影/小島真也)

頑張ってるあなたを、必ず見てくれている人はいる『あの日、選ばれなかった君へ』の阿部広太郎さんと、『私の居場所が見つからない。』の川代紗生さん

「辛酸を味わい尽くせば、いつか自分の糧になる」(阿部)

川代紗生(以下、川代) 私、1度した選択をちゃんと後悔するというのも大事かなというふうに思っていて。正解の道があるんじゃなくて、選んだ道を正解にするんだという考え方って、けっこうメジャーになってきたかなというイメージがあるんですけど……

阿部広太郎(以下、阿部) 分かります。

川代 それも本当にそうだなって思うし、実際そうしてきたからこそ進めた道とかもいっぱいあるんですけど、その一方で、1回選んでしまったものを正解に捻じ曲げようとして、もう後戻りできなくなるみたいなこともあるじゃないですか。
 私の知り合いとかでも、リスクをとってすごい大きなチャレンジをして、それを正解だったというふうに言いたいから、どんどんどんどん突き進むみたいな。でも、実際はもしかしたらそれって、1回立ち止まって、「やっぱりこのやり方はこう間違ってたから、こっちでやり直そう」というふうにするのも大事なのかなというふうに思うんですけど。意外と1度選んでしまうと、もうそれしかないみたいになっちゃうこと多いなと私は思うんですけど。

阿部 自分の選んだことは、どうしても成果を出したいですし、一方でうまくいってないときに意固地になってしまうのは避けたいですよね。
 僕が意識しているのは、周りを信じることです。自分がどうしても正解にしたい道に進んでるときに、例えばですけど「最近怖い顔してるよ」とか、「本当にそれでいいの?」みたいに、周囲の誰かが声をかけてくれることはあるんじゃないかなという気がしていて。
 もう少し行けば突破口あるかもしれないけど、でも本当はしんどかったりとかしたときに、それをやり続ける意味がどこまであるのか、引き返しても全然いいんじゃないのか。今とは違う道が右に、左に向いたらあるんじゃないかと立ち止まってみる。自分の中に生まれた違和感や、近くにいる人の直感は大事にしたいなと思いますね。

川代 あと私、もう1個聞きたいことがあって、全然流れ違っちゃうんですけど。負けたときに、すぐに這い上がれるかっていう話で。全力でやったことがうまくいかなかったときって、めちゃくちゃ落ち込むじゃないですか。そのときって、「でも、やるだけのことはやったしな」となってすぐ切り替えられるのか、それとも、ある程度落ち込む期間があって、その後復活していくのか。阿部さんってどうなんですか。

阿部 自分の中で「確かに!」と思ったのは、「どん底に落ちたら、掘れ」というイタリアの格言です。這い上がるんじゃなくて、むしろどん底だと思ったら、もっと掘れば何かがあるんじゃないかという意味合いだと受け取っています。例えばコンペで、とてつもなく真剣にやったんだけど、いろんな事情があって選ばれなかったことがあったときに、失恋したぐらいの喪失感があるんですけど、その喪失感を味わい切る。しっかりと心に刻み付ける。そういうことは大事にしていますね。
 で、なんでそれやるのかというと、その経験を手放さずに引き出しにしまうことで、いつか誰かを救えるかもしれないというのが文章を書く仕事だと思うんですよね。いつか自分の、そして誰かの糧になるからこそ、味わい切る。でも、渦中はつらいです(笑)。

川代 確かに分かります。こんなに辛いのはこのときだけかもって。もったいないから味わい尽くしておこうみたいな(笑)。

阿部 銭湯に行く、おいしいものを食べる。それである程度、心は晴れるなと思っています。そして、辛いことは幸せになるための前振りなんだと気持ちを切り替える。そう思わなければ、やってらんないよって気持ちもあるんですけど。

川代 そういうときって何かノートに書いたりするんですか。

阿部 ノートには書かないですし、アプリでメモするわけでもないですけど、頭の中で延々と考え、シンプルな結論になるまで思考を巡らせてますね。

川代 じゃあ日常生活の中で何かボーッとしながら。

阿部 ボーッとしながら考える、寝る前に考える、ですね。僕、格闘技が好きで、格闘家の方の動画をよく見るんです。最近、まさにそうだなと思ったのは、格闘家の青木真也選手が「負けは貯金」と言っていたんです。

川代 負けは貯金?

阿部 例えば負けが込んできて、もう本当に後がないところで自分にとってチャンスとなる試合が組まれたときに、負けがたくさんあったからこそ、勝ったときに、リターンが大きく自分に跳ね返ってくる。負けがあるからこそ、勝ちの意味合いがとても上がる。負けるということは貯金なんだという表現をされていたのがすごく僕の心に響いて。勝ち負けのどっちも大事で、負けも意味あるものとしてストックされていくんだなと思いますね。

川代 確かに確かに。本当にそうですね。

頑張ってるあなたを、必ず見てくれている人はいる阿部広太郎(あべ・こうたろう)
1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。中学3年生からアメリカンフットボールをはじめ、高校・大学と計8年間続ける。2008年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、電通入社。人事局に配属されるもクリエイティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」篇の制作に携わる。作詞家として「向井太一」「円神-エンジン-」「さくらしめじ」に詞を提供。Superflyデビュー15周年記念ライブ“Get Back!!”の構成作家を務める。2015年から、連続講座「企画でメシを食っていく」を主宰。オンライン生放送学習コミュニティ「Schoo」では、2020年の「ベスト先生TOP5」にランクイン。「宣伝会議賞」中高生部門 審査員長。ベネッセコーポレーション「未来の学びデザイン 300人委員会」メンバー。「企画する人を世の中に増やしたい」という思いのもと、学びの場づくりに情熱を注ぐ。著書に『待っていても、はじまらない。ー潔く前に進め』(弘文堂)、『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ? だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。