「人生は選択の連続である」と言う人がいるが、本当にそうだろうか。人生は「選ばれないこと」の連続ではないか。この春、「選ばれなかった」ことをテーマにした書籍『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(阿部広太郎)が刊行され、話題になっている。
著者であるコピーライターの阿部広太郎氏が、兄のように慕う先輩である出版社「ひろのぶと株式会社」の田中泰延氏と熱くおもしろいトークを繰り広げた。5月2日に東京・下北沢のB&Bで行われたトークイベントから、一部を再構成してお届けする。

「お前は10年早い」「君は向いてない」と先輩から言われても出来るたった1つのことPhoto: Adobe Stock

初めて挨拶した時に「この会社辞める」と言った先輩

阿部広太郎(以下、阿部) 今日は、この春に刊行した『あの日、選ばれなかった君へ』という本の出版記念ということでお送りします。自己紹介からお話すると、私はコピーライターという仕事をしています。広告の文章を書いたり、作ったり、その他にも言葉の発信の仕方や受け取り方を、1人でも多くの人に分かち合っていきたいという思いから、「企画でメシを食っていく」という連続講座をやっています。今回の本が4冊目になります。

田中泰延(以下、田中) ついに4冊! すごいね。

阿部 2016年に『待っていても、はじまらない。ー潔く前に進め』という書籍を刊行した時に初めて大阪でひろのぶさんにお会いすることができたんですよね。「同じ会社の後輩です。はじめまして!」と挨拶したら、「いや、僕も会いたかったですよ。でも、僕会社辞めるんです」と言われて。晴天の霹靂でびっくりで、ただそれ以降もTwitter上でひろのぶさんとやり取りさせていただいて、今日に至ります。それでは、ひろのぶさんよろしくお願いします。

田中 田中泰延と申します。阿部さんとは、同じ会社に勤めてはいたんですが、辞めると決まってからお会いしたぐらいなんで、お仕事でご一緒することはなかったんです。僕も電通でコピーライターとしてやってきて、2016年の暮れに退職しまして、それからちょっとぶらぶらしてたんですけど、その後、ダイヤモンド社の今野良介さんという編集者と出会いまして、『読みたいことを、書けばいい。』という本を出さしてもらいまして、なんとか書いて生きていけるようにはなったんです。

 本を出してすごく嬉しかったんで、じゃあ、自分も出版社を作ろうということで、名前がひろのぶなので、「ひろのぶと株式会社」という出版社を作って、本を刊行させていただいています。『あの日、選ばれなかった君へ』はめちゃくちゃ僕も感動したんで、今日はその辺の話をしていきたいなと思っています。その辺の話をしなかったら何を話すんや。

阿部 『あの日、選ばれなかった君へ』という新刊は、端的にいうと再出発の本です。受験、就活、恋愛、部活、仕事、一生懸命やってきたけど、叶わない時って、誰しもあると思うんですけど、そういう時にどうやってリスタートしていくかをテーマに書いています。まさに「七転び八起きの本」ですね。帯には、「不安なのは、君が本気だからだ。」と書いていて、日々の不安と、どういう風に向き合っていくかも書いています。

 今の成長した自分が、かつて選ばれなかった自分、この本では「君」に、どんな声をかけられるのか? 俯瞰した立場じゃなくて、自分自身のエピソードを赤裸々に書くことで、読み手の人に「あぁ、わかるな」「こういう風にすればいいのか」と身近に感じていただきたいですし、生きる勇気を分かち合いたいと思っていて、幸いにも先日重版することができました。皆さんのおかげです。ありがとうございます!

田中 「重版」。出版社やってる私からすると、この世で一番好きな言葉ですね(笑)。次に好きな言葉が「増刷」。

阿部 ほぼイコールですね(笑)。ひろのぶさんから、「ビジネス本の会社から、この青年が出したのは小説です」という感想をツイートでいただいて、本当に嬉しい言葉でした。読んでどんな風に感じたか改めて聞いていいですか。

田中 先ほど「七転び八起き」っておっしゃいましたけど、どう考えても、7回転んだら起きるのは数学的に7回だと思うんですよね。最後の1回はなんなんですかね(笑)。

阿部 サブタイトルの「7枚のメモ」が「七転び八起き」にかかっているというのは後付けなのですが、転んでいるところからスタートすると数字は合いますね。

田中 あと、「やまたのおろち(八岐大蛇)」ね、頭が8個なら7股だって。いや、これは世界3大7不思議の1つです。ちなみに世界3大7不思議って21個ありますから。そんなことが言いたいのではなくて、読ませていただいた時にですね。パラパラとめくって、「あれ、これ小説じゃない?」って言ったら、阿部さんが「そうなんです。ダイヤモンド社っていうビジネス書を中心に出している出版社から、ビジネス書のような小説を出すという試みです」と。それ、すごいことかなと思って。

 実はね、僕も『読みたいことを、書けばいい。』と『会って、話すこと。』という本を、ビジネス書みたいなテイでダイヤモンド社さんから出さしてもらってるんですけど、ある人に言わせたら、「中身は完全にポエム」らしいです(笑)。人間が、言いたいことをメッセージとして伝えたら、それは本当の意味でのビジネス書になるんだと僕は思っていて。自分の出版社が出したい本もそういう本なんですよ。スキルじゃない。「こういう時にはこうすればいい」と言ったって、その通りにはならないじゃないですか。それよりは、思いのところを書いたらいいんじゃないかなと。

 あと、読まれた方はもう気づかれたかと思いますが、なんと『あの日、選ばれなかった君へ』は、二人称なんですよね。全て主語が「君は何々をしている」なんですよね。珍しい。二人称の文章というのはすごく難しいジャンルで、文学作品ではいくつかあるんですよ。作品名をメモしてきました。『冬の夜、ひとりの旅人が』ってイタロ・カルビーノの有名な小説。これはなんと書き出しが、「あなたは今、イタロ・カルビーノの新しい小説、『冬の夜、ひとりの旅人が』を読み始めようとしている」っていう文章で、もうアイデアですよね。あと日本にも色々あって。倉橋由美子さん『バルタイ』『暗い旅』、重松清さん『疾走』。最近だと、井戸川射子さんの『この世の喜びよ』。二人称って難しいけど、読み終わった時のその一体感ってすごいなと思って。