『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』が、若いビジネスパーソンや学生の間で静かな話題となっている。競争に疲れた心を癒してくれる本と反響を呼んでいる。2度目の増刷を記念して、著者の阿部広太郎さんの対談を企画した。お相手は『私の居場所が見つからない。』が若い女性の生きづらさを表現していると話題になっている川代紗生さん。2つの作品から浮かび上がるキーワードは、「人生の選択」「挫折と後悔」「自分の居場所」「承認欲求」「自己肯定感」など、どこか通じるものがある。予想通り、“同志”の対談は大いに盛り上がった。(構成/亀井史夫 撮影/小島真也)

さらけ出すように書くことで伝わるものがある『あの日、選ばれなかった君へ』の阿部広太郎さんと、『私の居場所が見つからない。』の川代紗生さん

「主人公の立場が逆転する終盤にグッときた」(阿部)

――今回は、阿部広太郎さんの『あの日、選ばれなかった君へ』増刷記念ということで。何をやったらいいかなと考えてたんですけど、ふと、川代紗生さんの『私の居場所が見つからない。』とけっこうテーマが似てるなと思いまして、ぜひお二人でお話ししてみると面白いんじゃないかと。

川代紗生(以下、川代) ありがたいです、召喚していただいて(笑)。

――川代さんは阿部さんの本を読まれて、何が心に残りましたか?

川代 以前にご挨拶させていただいたときの「コピーライターさん」のイメージもあり、子どものときあまり友達がいなかったっていうのがすごく意外で。あと、受験のエピソードもすごくビックリしました。実は私も補欠合格だったんです。

阿部広太郎(以下、阿部) え、そうなんですね。

川代 はい、だから、「入りたいけど、補欠だー」ってなって、待ってるときの、「ライバルよ、頼むから行きたい学校行っててくれ」って願う感じとか、もうめちゃくちゃ重なってしまって。

阿部 すごい偶然ですね。

川代 あとは、この本のテーマとして大事なワードが、「選択」というのがあったと思うんですけど、普通は選んだあと後悔しないように、「正解の道があるんじゃなくて、選んだ道を正解にするしかないんだ」というふうに言ったりします。私もそれはそうだなと思うんですけど、阿部さんの言葉だと、選んでこなかった過去の自分とか、過去に選択してきた自分の決断そのものを尊く思うみたいな気持ちがあって、そこがすごく大事なんじゃないかなって改めて思ったんです。なんかすごい抽象的なとこから入っちゃった(笑)。

阿部 いやいや、ありがとうございます。まさに、何かに選ばれる・選ばれないということは結果としてはあるんですけど、僕は前提にある選ぼうとしたことに意味があると思いたいタイプで。川代さんの著書『私の居場所が見つからない。』も、見つからないということは見つけようとしたということだと思うんです。どうすれば自分と社会がつながれるのか、その模索にすごく心が響きました。本の終盤で、居場所を見つけられないと思っていた川代さんが、就職活動中の大学生の相談を受けるエピソードがありますよね。心の奥底では作家になりたいと思っている学生の方に対して逆に居場所を見つけてあげたという、そこにじーんとします。

川代 ああ。

阿部 見つからないけど、選ばれないけど、それでも変わっていくという川代さんの本の流れ、その変化が良いなぁと。

川代 ああ、確かに、選ばれなくて悔しいみたいなエピソードありましたね(笑)。

阿部 僕の本『あの日、選ばれなかった君へ』では、選ばれなかった自分が、逆に選ぶ側になってしまったときに、自分の決断で選ばれなかった人が生まれるという、その両面を描きたかったんです。なので、川代さんの本の構成に共鳴したんですよね。あと、「さらけ出す」表現というか、書くか書かないか迷って書くと決めた文章がすごく多いのではないかと感じました。

川代 確かに、確かに(笑)。阿部さんは書くかどうか迷って書いたことありますか。

阿部 あります。うまくいかなかった恋愛の話とか、一度書いてみて、書かなくてもなんとかなりそうだなとその後に消していたら、編集者の亀井さんから、「なんで書かないんですか?」と言われて、そうか、書かないとダメかと。書かなくてもいいかもしれないけど書いたほうがより読者の心に響くこともあるのかと。川代さんの本にも、書くか書かないかの気持ちの格闘があったんだろうなという印象は受けましたね。

川代 それは本当にめちゃくちゃありました。ここまで書いていいのかみたいなのもありましたし(笑)。

阿部 そうですよね。

川代 でも、ビックリするのは、けっこう読者の方からメッセージをもらったりとかすることあるんですけど、すごい長文で、「私はこうで」みたいなことを、私の書いたことと同じ熱量でさらけ出してワーッと書いてきてくれる。「こういうことがあって」みたいなふうに言って送ってきてくださる方が、刊行からしばらく時間が経って増えてきたんです。で、そういう方がおっしゃるのが、「書いてくれてありがとう」みたいなことなんですよね。
 阿部さんの本にも、「腹割って話せるのか」みたいに先輩に言われて、「まずは自分がさらけ出さないと、周りはさらけ出してくれない」みたいなエピソードがありましたけど、私も、「これだけさらけ出してる人がいるから、こいつになら言ってもいいかな」みたいな感じで(笑)、メッセージ送ってきてくれる人がいる。その本を読むことで自分と対話しながら、同じ苦しみを持ってる人が世界のどこかにもう1人いるんだみたいな感覚になってくれるのかなと思いました。

阿部 そうですよね。自分が書いたことで誰かの気持ちが軽くなることにつながるんだっていう……世の中の多くの自己啓発本の、「悩まなくていい」とか「シンプルに考えろ」みたいな風潮に対する憤りも川代さんは書いてらっしゃって、分かるなぁと思いながら。

川代 (笑)

阿部 何かを断定してくれてることに寄りかかりたくなる自分もいるんですけど、目の前の現実はそれで解決する訳でもなく、最終的に自分なりになんとかするしかないんですよね。そこで大事なのは、折り合いのつけ方で。そのプロセスを開示していったほうが僕は「なるほどな」と思えるタイプだったりするので。

川代 ああ、折り合いをつけるまでの心のプロセス。

阿部 そのプロセスを、の声とも言えると思うんですけど、川代さんは言葉にして刻まれていますよね。それがあるからこそ読者の人も、「この人であれば、自分の心の内を聞いてくれるだろう」と思うんじゃないかなと。僕の本もよく「すごく赤裸々に書いてらっしゃいますね」と言われるんですけど、それをちゃんとしないと、結局他人事で終わっちゃうかもしれないという危機感があって。まず自分がちゃんと開く慎重に言葉を選びながら、心をゆっくり開くことで、つながれる度合いが濃くなるんじゃないかなと思ってます。

さらけ出すように書くことで伝わるものがある阿部広太郎(あべ・こうたろう)
1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。中学3年生からアメリカンフットボールをはじめ、高校・大学と計8年間続ける。2008年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、電通入社。人事局に配属されるもクリエイティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」篇の制作に携わる。作詞家として「向井太一」「円神-エンジン-」「さくらしめじ」に詞を提供。Superflyデビュー15周年記念ライブ“Get Back!!”の構成作家を務める。2015年から、連続講座「企画でメシを食っていく」を主宰。オンライン生放送学習コミュニティ「Schoo」では、2020年の「ベスト先生TOP5」にランクイン。「宣伝会議賞」中高生部門 審査員長。ベネッセコーポレーション「未来の学びデザイン 300人委員会」メンバー。「企画する人を世の中に増やしたい」という思いのもと、学びの場づくりに情熱を注ぐ。著書に『待っていても、はじまらない。ー潔く前に進め』(弘文堂)、コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ? だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。