みなさんは、世の中のちょっとした変化に敏感でしょうか。
数字に強い人は、ちょっとした変化に「違和感」を感じ、自分で仮説をたてて、その理由を数字で考えていきます。
経営コンサルタントとしてこれまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施してきた平野薫氏は、①世の中の事象に違和感を持つ→②違和感にフォーカスする→③自分なりに仮説を立てる→④数字で根拠を分析し検証する→⑤人に話したりブログに書いてアウトプットする、という一連のルーティンを日々継続して行うことが数字に強くなるコツだと言います。まずは、「違和感」を放置せずフォーカスすることが大切なのです。
本連載では、「世の中のふとした疑問を数字で考えるエピソード」が満載の話題の書籍『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』から一部抜粋し、数字に強くなるエッセンスをお届けします。
地ビールブーム再来
仕事でもプライベートでも全国いろんな場所を訪問していますが、最近見かけることが増えたと感じるのがご当地の“地ビール”です。現在ではクラフトビールと呼ばれることが多くなりましたが、小規模な醸造所でビール職人がこだわりの原材料で手造りしていることから、「手工芸品」を意味するcraftを冠してクラフトビールと呼ばれています。
地ビールが出現したのは1994年。酒税法改正により、ビール製造免許に必要な年間製造最低数量が2000kl(大びん換算で約316万本)から60kl(同 約9万5千本)に引き下げられました。
これにより大手ビールメーカー以外の小規模醸造所が誕生し、3年ほどの間に全国各地に200を超える地ビールが誕生しました。品質と価格のバランスから一時は衰退したものの、世界的なクラフトビールブームやコロナ禍でのプチ贅沢志向も重なり、国内でもブームが再来しています。現在では全国に700前後の小規模醸造所があり、拡大を続けています。
ウイスキー製造には膨大な運転資金が必要
観光地に行けば、どこに行ってもご当地の地ビールを飲むことができるまでになりました。地ビールと同様、日本酒の地酒やご当地のワインなど日本各地でいろんなお酒を見るようになりました。
しかしあまり見かけることがないのがご当地のウイスキーです。調べてみると、有名な秩父の地ウイスキー「イチローズモルト」や、日本酒や焼酎の蔵元が製造しているウイスキーなどいくつかありますが、地ビールと比べて圧倒的に少ないことが分かります。
なぜ地ビールはよく見かけるのに地ウイスキーは見かけないのか?
それは運転資金の問題が大きいです。
ご存じの通り、ウイスキーは長期間、樽の中で熟成させる必要があります。
現在では世界の5大ウイスキーに数えられるようになったジャパニーズウイスキーの定義の一つに3年以上熟成させるというものがあります。つまり、ウイスキーの製造を始めてから最初に現金化できるまで長期間を要するわけですね。
財務諸表では原材料、仕掛品、商品を全てまとめて棚卸資産と表示します。何日分の棚卸資産があるのかを示す棚卸資産回転期間という財務指標があり、棚卸資産÷1日分の売上原価(売上原価÷365)で計算します(※売上原価の代わりに売上高を使用することもあり)。
棚卸資産が圧倒的に多いのはどのメーカー?
大手お酒メーカー4社の棚卸資産回転期間(日)を計算すると下の図表のようになります。
見ていただくと分かるようにサントリーの棚卸資産が圧倒的に多く、棚卸資産回転期間も長いことが分かります。アサヒもキリンもウイスキーの扱いはあるものの、昭和初期からウイスキーを中核商品としていたサントリーに比べればその比率は小さいです。ウイスキーの取り扱いが多いと製造過程の仕掛品が多くなることに加えて、出荷が増えた際にも急な増産ができないため安定供給の観点からも完成品の製品在庫を多く抱える必要があり棚卸資産が膨らみます。
このようにウイスキー製造は運転資金が膨らみ資金力が必要です。そのため、製造してすぐに販売できるビールと比べてビジネスのハードルが高く、参入する企業が少ないという結果に繋がっていると考えられます。
スコットランドなど海外では中小のウイスキーメーカーもたくさん存在しますが、そのようなメーカーはほとんどが老舗企業です。過去から蓄積した潤沢な手元資金があるために膨大な運転資金を負担できるわけですね。
(本原稿は、平野薫著『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』を抜粋、編集したものです)