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インキュベーションの虚と実

世界から熱い視線を注がれる500 Startups
起業家を成功に導く文化と手法とは何か【前編】

本荘修二 [新事業コンサルタント]
【第24回】 2013年4月8日
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カルチャー、コミュニティ、ネットワーク効果
起業家視点を持つ投資家

 ここまで読んだ方は、500 Startupsが、日本のインキュベーター/スーパーエンジェルと異なることが分かるだろう。米国でも異質な存在だから無理もない。

 だが、ネットワーク効果については、十分理解されていないかもしれない。また、コミュニティやカルチャーについては、そもそもピンとこない人が多いだろう。それは視察ツアーやオンライン記事を読んでも、分かるのは難しいことだ。しかし、「人が命」の起業プロセスでは肝要なのである。

 500については、そもそも起業家の視点を持っているのか、投資家の視点を持っているのか、という議論がある。筆者は500 Startupsは、投資家でありながら起業家の視点も持っていると感じる。どちらか側に分かれるのでなく、両方の視点がつながっているというイメージだ。それは、500が従来型の投資家よりも、起業家に近い姿勢や行動をとることから、随所に表れている。

 投資家は、しばしば当の起業家よりもビジネスのことを分かっていると錯覚したような言動を取ることがある。筆者の経験でも、的外れというより、むしろアホかと思うようなことを言う投資家に出会うことが少なくない。お金を出してもらおうという起業家は、これを黙って聞いている。

 一方で、500は無知の知をよく理解している。つまり、「何が分からないか」を認識しているのだ。だから、起業家にフレンドリーな態度で接することができる。その上で、分からないことを知るためのテクニックやプロセスを起業家に教え実践させている。いっしょに前に進もうという姿勢だ。

 また、第4回でも記したが、少額で大きな持分を取ろうとする投資家が多いが、500はフェアな条件を重視している。

 例えば、アクセラレーター・プログラムでは、参加するスタートアップへの500からの出資について5万ドルで5%取得(会社の評価額100万ドル)を標準としている(ファンドI)。これ以下の出資金額でもっと多い持分を取っている投資家が日本でもいくつもあるのが実態だが、500よりも付加価値をスタートアップに提供しているかは疑問であり、それだけ500はフレンドリーな条件で起業家とつきあっていると言えよう。

 目の前の損得だけでガメツク動くと、その起業家とのリレーションはいずれうまくいかなくなる。ネットワーク効果を狙う500は、起業家たちとフェアーな関係をつくることで、長期的なコミュニティーの発展を図っている。

 だが、もちろん起業家の言うことをうのみにはせず、彼らの教育・啓蒙には熱心だ。イベントなどにとどまらず、経営指標や顧客関連データ、そしてユーザーのフィードバックを重視した経営を実行させている。思い込みで突っ走るのでなく、科学的にデータや事実をみることで、「分からなかったこと」が紐解かれ、より早い段階でスタートアップ経営の軌道修正や新たなアイデアの創出につなげている。

 なお、これをベンチャーの話と片付けてはならない。日本の大企業でも、経営幹部や部門間の見解相違や連携欠如で新事業がうまく行かないなど、社内のカルチャーが問題だと言われて久しい。事業創造とイノベーションに関わる読者の方々にとって、そのまま真似はできないにしても、500のやり方は、刺激となるはずで、ヒントの宝庫だろう。

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本荘修二

新事業を中心に、日米の大企業・ベンチャー・投資家等のアドバイザーを務める。多摩大学(MBA)客員教授。Net Service Ventures、500 Startups、Founder Institute、始動Next Innovator、福岡県他の起業家メンター。BCG東京、米CSC、CSK/セガ・グループ大川会長付、投資育成会社General Atlantic日本代表などを経て、現在に至る。「エコシステム・マーケティング」など著書多数。訳書に『ザッポス伝説』(ダイヤモンド社))、連載に「インキュベーションの虚と実」「垣根を超える力」などがある。


インキュベーションの虚と実

今、アメリカでは“スタートアップ”と呼ばれる、ベンチャー企業が次々と生まれている。なぜなら、そうした勢いある起業家たちを育てる土壌が整っており、インキュベーターも多く、なにより、チャレンジを支援する仕組みが存在するからだ。一方の日本はどうなのだろうか。日米のベンチャー界の環境の変化や最新のトレンドについて、25年にわたってベンチャー界に身を置いてきた本荘修二氏が解説する。また日本でベンチャーが育ちにくいと言われる背景を明らかにし、改善するための処方箋も提示する。

「インキュベーションの虚と実」

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