江戸川乱歩 出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」
名探偵・明智小五郎の生みの親、江戸川乱歩。その数々の名作もまた、読書体験から生まれ、乱歩のオリジナリティとして昇華された…。エドガー・アラン・ポーと谷崎潤一郎の作品が、乱歩にどのような影響を与えたのか、新刊『本を読む人だけが、“自分の壁”を突破できる』(青春出版社刊)から、抜粋して紹介します。前後編の後編です。
>>前編『職場を1年で脱走…江戸川乱歩が働きたくない日々に出会った「運命の日本人作家」の名前』から読む
名探偵「明智小五郎」が谷崎作品を解説する
江戸川乱歩と言えば、名探偵・明智小五郎の生みの親としても知られている。明智小五郎が初めて登場したのが、デビューから3年後の1925(大正14)年に発表した『D坂の殺人事件』だ。
主人公の「私」はD坂にある喫茶店で、素人探偵・明智小五郎と出会う。明智が密室殺人事件を追及していく本格探偵小説として注目を集めた。
タイトルの「D坂」とは、乱歩が経営していた古書店のある団子坂のことである。『D坂の殺人事件』では、こんなセリフがある。
「例えば、谷崎潤一郎の『途上』ですね。ああした犯罪は先ず発見されることはありませんよ」
明智がいろんなタイプの殺人事件を主人公の「私」に解説するかたちで、愛読する谷崎作品を引き合いに出している。
谷崎潤一郎の『途上』とは、新しい妻を迎える湯河勝太郎のもとに、私立探偵が突然、訪ねて来て、先妻の病死を問い詰めるというもの。
乱歩が小五郎に「まず発見されることはない」と言わせているのは、『途上』での犯罪が「偶発的な可能性を重ねることで、目的を果たす」というものだったからだ。平たく言えば、自分が直接、手を下すのではなく、偶発的に死に至りやすい状況に誘導する犯罪のことだ。







