子育てをしていると、子どもの「ことば」の能力の発達が気になるもの。「子どものことばの発達」を専門とする言語聴覚士(げんごちょうかくし)の寺田奈々さんのもとには、日々、親御さんからのお悩み相談がよせられます。寺田さんがことばを引き出すレッスンを行うなかで、重要なアイテムのひとつとなるのが「絵本」です。じつは絵本には、子どもの「ことば」を引き出すポイントがいくつもあるのだとか。
今回は、ダイヤモンド社の新刊『ねこのおせわをしてください。』の発売を記念して、言語聴覚士の視点から寺田さんに本書をよみといてもらいました。
パターンがあると、わくわくしながら先を待てる
『ねこのおせわをしてください。』は、とてもシンプルな構造の絵本で、パターンがはっきりしています。
たとえば、読者が「おせわ」をするねこは、どのページでも開いた右側のページにいます。じつはこれが、非常に重要なポイントです。言語聴覚士として絵本をお子さんと読んでいるとき、お子さんの注意があちこち散ってしまい、見てほしいところに視線を誘導するのが難しく、悩むことがあります(もちろん、そうした絵本も、楽しく読めればそれはそれでよいのですが!)。
いつでもねこが右側に居てくれると、ページをめくっていちばんさいしょに目が行きますね。
展開を予想すると、想像力が芽生える
本書は、ページをめくるたびに、ねこの様子や行動が変わります。ポイントは、「毛がぼさぼさになる」「すりよってくる」……など、ひとつの見開きでねこが行っている行動がひとつずつであること。このような構造の絵本は、子どもが意識を集中しやすいです。
「いつもねこさんはページの右側に居て、いろんなことをしている」という同じパターンが続くことで、お子さんは、次はどんな展開だろう? と楽しみながら次を予想して待つことができます。展開を予想をするとき、頭の中ではイメージが描かれています。イメージを描く力は、目の前にないことを想像する力や、論理的な思考力の芽生えとなります。
「雨がざあざあふってきた!」「ねこはびっしょびしょ!」といった場面での、お子さん自身が次の展開を予想しながらの読み聞かせは、動的で前のめりな読み聞かせとなることでしょう。読み聞かせながら、ときどき、「(このあと)どうなると思う?」と尋ねてみても、おもしろいかもしれません。
パターンの予想を裏切られるのも楽しい
ちなみに、絵本の後半では、突然パターンが崩れ、「あれれ?」となる展開があります。この、”ちょっとだけ予想を裏切る展開”は、お子さんのワクワクする気持ちをより一層引き出します。
慶應義塾大学文学部卒
大学卒業後、2年過程の養成課程で言語聴覚士免許を取得。総合病院、耳鼻科クリニック、専門学校、区立障害者福祉センターなどに勤務。年間100症例以上のことばの相談・支援に携わる。臨床のかたわら、「おうち療育」を合言葉に「コトリドリル」シリーズを製作・販売。著書に『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)『ことばを引き出す遊び53』(誠文堂新光社)『絵をみてまねっこ!いっしょにできたねおしゃべりカード』(合同出版)がある。専門は、お子さんのことばの発達全般・吃音・発音指導・読み書き学習面のサポート・大人の発音矯正。