日本最大級の住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」(株式会社MFS)を運営する塩澤崇氏が、住宅ローンにまつわるお金の新常識を解説した決定版『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』を5月に上梓した。これから借りる人だけでなく、すでに借りている人にも役立つアドバイスが満載の本書は、「もっと早く出合いたかった」と反響を呼んでいる。今回は、「利上げがあるのでは?」と憶測が飛んでいる今月末の日銀金融政策決定会合を前に、変動金利の仕組みについて塩澤さんに伺った。(聞き手/『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者 安達裕哉氏、構成/ダイヤモンド社 根本隼)
変動金利の仕組みがすぐわかる「シンプルな公式」
――塩澤さんは、ご著書のタイトル通り「変動金利」をおすすめしていますが、どういうシステムなのか詳しく知らない方も多いと思います。まずは、変動金利の仕組みから教えてください。
塩澤崇(以下、塩澤) これが、変動金利の決まり方です。覚えておいて損はないので、少しかみくだいて説明していきましょう。
「適用金利」というのは、実際に皆さんが支払う金利です。この適用金利は、金融機関が定める「基準金利」から、「引き下げ幅」を差し引いて決まります。ここでは、基準金利は定価、引き下げ幅は割引だと考えておいてください。
引き下げ幅はローンの審査時に決まるもので、完済までずっと一定です。つまり、審査の段階で引き下げ幅が2%に決まったら、35年間ずっと2%のままになります。
たとえば、いまは基準金利が2.475%で、引き下げ幅はだいたい2%ですから、適用金利は2.475-2=0.475%になるわけです。とてもシンプルですよね。
――すごくわかりやすいですね。
2010年代に変動で借りた人は要注意
塩澤 一方で、2010年代ごろは、銀行間の競争がそれほど激しくなかったので、いまよりも引き下げ幅がかなり小さかった。おそらく、1〜1.5%ぐらいだったはずです。
なので、その時期に住宅ローンを変動で借りた人の適用金利は、高いと2.475ー1=1.475%程度の人もいるでしょう。現在の水準より1%も高いので借り換えないと損なのですが、1%超の変動金利で借りている人は、まだざらにいます。ぜひ、ご自身の支払い状況を確認してほしいですね。
――ちなみに、引き下げ幅というのは、どうやって決まるんですか?
塩澤 これは、借り手の「信用力」だと思っておいてください。
貸し倒れるリスクが低そうな人の引き下げ幅は大きくなりますし、一方で「この人はちょっと危ないかな?」と銀行が判断した場合は小さくなります。また、引き下げ幅の大きさは、金融機関によっても違います。
――先ほど、引き下げ幅は「完済まで一定」とのご説明もありました。そうすると、住宅ローンを借りる時点で収入がさほど高くなかった人が、10年後に高給取りになっていても、引き下げ幅は変わらないということなんですね。
塩澤 すごく良いポイントですね。まさにその通りで、借りた時点の評価をその後もずっと引きずることになるので、そうしたパターンの人は損をしてしまいます。
なので、住宅ローンを借りる際は、銀行からなるべく良い評価をもらえるように、家計を「キレイな状態」にしておくことも非常に重要なんです。
「基準金利」はどう決まる?
――そもそも、「基準金利」とは何でしょうか。すごく気になってきました。
塩澤 多くの銀行では、「短期プライムレート」(短プラ)と呼ばれる金利に1%足したものを、住宅ローンの「基準金利」と決めています。短プラというのは、すごく簡単に言うと、優良企業向けの短期貸出金利のことです。
つまり、企業がお金を借りる金利(短プラ)と、個人が住宅ローンを借りるときの基準金利が連動しているということです。そして、この短プラを左右するのが、日銀の「政策金利」なんです。
ということで、ここまでの情報を整理すると、以下のようになります。
(1)日銀の政策金利の動向に「短プラ」が影響を受け、
(2)短プラが変動すると「基準金利」も連動し、
(3)基準金利しだいで「適用金利」が決まる(いったん借りると、引き下げ幅は一定)
この流れを理解すれば、世の中の動きと自分の支払う金利とのつながりが見えてくるので、ぜひ頭に入れておいてほしいですね。
(本稿は、『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』の著者・塩澤崇氏へのインタビューをもとに構成しました)
株式会社MFS 取締役COO
2006年、東京大学大学院情報理工学系研究科修了(専攻:数理情報学)。同年よりモルガン・スタンレー証券株式会社にて住宅ローン証券化ビジネスを推進。2009年、ボストン コンサルティング グループに入社し、金融機関向けの戦略コンサルティングに従事。2015年9月より、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営する株式会社MFSの取締役COOとして金融機関提携・オペレーション・事業提携・広報を管掌。全国紙でのコメント掲載やTVへの出演実績も多数。『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』が初の著書。