日本最大級の住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」(株式会社MFS)を運営する塩澤崇氏が、新時代に対応した住宅ローン本『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』を上梓し、SNSを中心に話題を呼んでいます。同書では住宅ローンの前提となる、「持ち家」と「賃貸」のどちらが有利か?という疑問にどのように答えているのでしょうか。
(※この記事は、『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』の一部を改変し公開しています。)
「賃貸」よりも「持ち家」が有利といえる3つの理由
前回までの話を踏まえて、「持ち家にするか、賃貸にするか」という住居費の永遠のテーマについて考えてみたいと思います。
このテーマを私がX(旧Twitter)などで発信をすると賛否両論のコメントで盛り上がります。答えが出せない宗教論争みたいな側面があるかもしれませんね。
まず結論としては、私は「持ち家がお得」だと確信しています。
これまでのデフレ時代は、持ち家と賃貸は一長一短なところがあり、一概に答えを出しにくい状況だったのですが、これから続くインフレ時代においては、持ち家派が有利になります。
具体的に、「35歳で7000万円の物件を購入する場合」と、「賃料20万円の物件を借り続けた場合」を比較してみましょう。物件は、東京・世田谷にある築10年、駅徒歩5分の2LDKの中古マンションを想定しています。住宅ローンは諸費用合わせて7560万円借りるものとします。
返済が終わる35年間でのコストを単純に比較した場合、実は賃貸のほうが安いことがわかります。図の通り購入した場合は約1億円、賃貸は9000万円弱となり、賃貸のほうが安いです。
ですが、購入した場合は「物件を保有できる」という非常に大きな強みがあります。
事例の物件を購入した場合、35年後は築45年のマンションを資産として保有することになります。最近の世田谷区の取引事例では、築45年でも約4000万円で売却することができ、持ち家は相応の資産ができているといえます。しかも持ち家なら住み続けることもできますから、終(つい)のすみかも得られている状態です。
さらに、購入した場合は、住宅ローン減税と団体信用生命保険(団信)という強力なメリットがあります。『金利が上がっても、 住宅ローンは「変動」で借りなさい』内で詳しくお伝えしていますが、これらのお得な制度のおかげで住宅ローンはむしろ「借りると儲かる」のです。こうした強みは、賃貸にはない持ち家ならではの特徴です。
一方、賃貸の場合はというと、残念ながら家賃をいくら払っても住んでいる家があなたの資産にはなることはありません。35年住み続けた後も家賃を払い続ける必要がありますし、高齢になるとそもそも家を借りにくくなるので、終(つい)のすみかとしては懸念があります。実際、とある大家さんは「孤独死や認知症による近隣トラブルを懸念し、65歳以上はお断りしている」といっていました。
公平を期してお伝えすると、賃貸にまったくメリットがないわけではありません。
賃貸は大家が設備の入れ替えコストを負担してくれますし、何より、他の物件へ引っ越しをしやすいのが魅力ですね。
また、「住む場所を選べる」という点でも賃貸のほうが有利です。2022年に東京都23区内にある2LDKの物件を調べたところ、新築が約3000戸、中古が8500戸程度でした。この2つをあわせた1万戸強が購入する場合の選択肢です。一方で賃貸はなんと5倍の5万戸もあります。
逆にいえば、賃貸のメリットはこれくらいですから、頻繁に引っ越す予定のない人や、持ち家の選択肢で満足できる人であれば、賃貸を選ぶ理由はほぼなくなります。シンプルに、資産形成という金銭面で合理的判断をするなら、持ち家一択でしょう。
話をまとめると、持ち家には賃貸にはない次のメリットがあります。
① 資産形成になる
② 高齢期の生活の基盤になる
③ 住宅ローン減税や団体信用生命保険を使える
なお、もし「今は不動産価格が上がっているから賃貸に住んで様子を見よう」とお考えなのであれば、その作戦はおすすめしません。まず、家賃は不動産価格と連動します。大家さんが「物件価格が上がっているから購入を様子見する世帯が増えるだろうし、家賃を高めに設定しても借りてくれるはずだ」と考え、家賃を強気で設定するからです。そうなると、次の図のように、将来的には契約更新や引っ越しのたびに家賃が上がって家計支出が増えるリスクがありますし、買おうと思っていた物件も値上がりして一層買いづらいというダブルパンチが発生してしまいます。不動産購入にはリスクは伴いますが、そのリスクを取らないリスクもしっかりと考えるべきです。