職場には「壁にぶつかって悩んでいる人」と「壁にぶつかっても悩まない人」がいる。一体、何が違うのだろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

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で、結局、何がどうなったらええねん?

 本書で紹介した西山裕之さん(現・GMOインターネットグループ副社長COO)はいつもこの問いを発していた。

 これこそ、人を悩みから解放してくれる究極の問いである。
 この思考アルゴリズムについて掘り下げていくことにしよう。

「原因解消思考」と「最終目的逆算思考」

「結局、何がどうなったらいいのか?」
 ──これは拙著『時間最短化、成果最大化の法則』でも紹介した「最終目的逆算思考」にほかならない。

 同書はおかげさまで10万部超のベストセラーとなった。
 すでにご存じの方もいるかもしれないが、本書のテーマ「悩まない人」に合わせながら解説しておきたい。

 何か具体的な問題が発生しているとき、2方向のアプローチが考えられる。

原因解消思考
最終目的逆算思考

 前者は問題を生み出している「原因」を調査・発見し、原因を取り除くことで問題を解決する手法である。

 後者は、そもそもの「目的」に立ち返り、そこから逆算しながら別の方法を発見することで、当初の問題を回避する手法だ。

『時間最短化、成果最大化の法則』では、スタートからゴールまで24時間以内にたどり着くゲームの事例を紹介した。

 ゴールに至るまでのルート上には大きな岩が邪魔をしている。
「大岩のせいで道を通れない」という問題が発生していたわけだ。

 このとき、「この岩をどうするか?」にフォーカスするのが「原因解消思考」である。

 ある人は「腕力が足りないせいで、岩を動かせなかった」と考え、筋トレに励む。

 別の人は「人数が足りなかったせいだ」と考え、岩を動かすチームを結成し、それを動かすためのリーダーシップを磨く。

 一方、「最終目的逆算思考」をする人は、「この岩をどうするか?」ではなく「結局、何がどうなったらいいのか?」を考える。

 言うまでもなく、このゲームの最終目的は「24時間以内にゴールにたどり着くこと」である。

 目的から逆算した彼は、すぐにアルバイトを始め、稼いだお金でヘリコプターをチャーターしていち早くゴールにたどり着く。

「悩まない人」が「原因」にフォーカスしない理由

 過去にうまくいっていたものがうまくいかなくなった場合や、他人ができていて自分ができていない場合は、「その差となっている原因」を探す「原因解消思考」が向いている。

 しかし、そうでない場合には「原因解消思考」は機能しない。

 多くの人の悩みは、未知の問題に対して「原因解消思考」で立ち向かってしまった場合に起きている。

「岩」という原因の解消にとらわれると、そこにはツラく険しい道が待っている。
 筋トレをしたりリーダーシップを磨いたりすることになり、無駄な時間や労力がかかる。しかも、それでうまくいく保証もないので、何度も壁にぶつかるうちに悩んでしまう。

 世の中には、問題の原因と思われていたことが、じつは原因でもなんでもないというケースが多々ある。

 そんな「ニセの原因」の解消にとらわれた人は、そこにエネルギーを吸い取られ、どんどんドツボにはまっていく。

「悩まない人」は、未知の問題に対しては常に「最終目的逆算思考」をしている。

 西山さんが口グセのように「結局、何がどうなったらええねん?」と言っていたのは、西山さんにすでにこうした思考アルゴリズムが備わっていたからだろう。

「悩まない人」は、問題にぶつかったとき、常に「本来の目的」を見直す。

 そして、その問題にぶつからずにすむ別のルートを複数考え、その中からゴールにつながる「最短の迂回ルート」を選んでいるのである。

 典型的な一例が、秋元康さん(1958年生)がプロデュースしたアイドルグループ「AKB48」だ。

 当時の音楽業界は「CDが売れない」という大問題にぶつかっていた。
 関係者たちはいかに「売れる音楽」をつくるかに頭を悩ませていた。

 しかし、ここでの最終目的は「CDを売ること」である。
 たとえ音楽がヒットしなくても、CDさえ売れればいい。

 そこで秋元さんがたどり着いたのが、AKB 48のCDに握手会参加券や総選挙の投票券をつけるというアイデアである。
 これにより、同じCDを何十枚も買うファンが多数現れ、AKB 48のCDはミリオンセラーを連発することになった。

 これも最終目的に立ち返ることで、「売れる音楽をつくる」という大きな岩を迂回するルートを見つけた好例といえるだろう。

「低評価に悩む人」が心の底で求めていること

 ここまで紹介してきたさまざまな悩みも、「最終目的逆算思考」を取り入れれば、一瞬で解消できるものばかりだ。

 たとえば、本書で紹介した、電車が運休になったことに頭を抱えていたAさん。

 彼にとっては、ある目的地に行くことが最終目的だった。
「電車が動かない」という原因にとらわれず、「目的地にさえ行ければいい」と「最終目的逆算思考」で考えれば、タクシーや自転車、徒歩という手段に目が行く。

 最終目的が「目的地にいるだれかとの打合せ」なら、電話やリモート会議に切り替えてもらう方法も考えられる。

 また、本書で紹介した会社での評価が低いことに悩んでいたBさんも、「原因解消思考」で取り組んでしまっている。

 彼女は、低評価の「原因」である「成果の低さ」を解消しようと、うっかり目の前の仕事をがんばってしまった。

 しかし、彼女の最終目的が別にあるなら、これは永遠に報われない努力である。このとき、次のような目的が考えられる。

 ・他人から評価されたいから、低評価に悩んでいる(最終目的は「承認欲求の充足」)
 ・同僚に負けたくないから、低評価に悩んでいる(最終目的は「ライバルに勝つ」)
 ・会社に認められたいから、低評価に悩んでいる(最終目的は「昇進・昇格」)
 ・もっと給料をもらいたいから、低評価に悩んでいる(最終目的は「給料アップ」)
 ・肩身の狭い思いをしたくないから、低評価に悩んでいる(最終目的は「安心感」)

 もしBさんの最終目的が「安心感」なら、無理に評価を上げようとする必要はない。

「とにかく職場で楽しく気楽にすごす」というゴールから逆算すると、「職場の人と仲よくなる」という道も考えられるからだ。

 また、「会社に認められて昇進・昇格すること」が最終目的だとしても、ただ仕事をがんばるだけでは筋がいいとはいえない。
 会社の評価基準を徹底的に調べ、それに合わせて行動を変えるべきである。

 その会社の重点評価ポイントがよく変わっているようなら、会社の状況や方針を把握し、そのために重要な仕事とは何かをつかみ、そちらに業務をシフトしていくべきだ。

 もしくはしっかり評価されるべきポイントで成果を上げているにもかかわらず評価されていないなら、自分の成果が正しく評価者に伝わっていないのかもしれない。

 その際は、評価者に成果がどのように伝わる仕組みになっているかを確認したほうがいい。

 いずれにせよ、評価を上げたいのなら「評価基準」「評価の仕組み」を確認することが第一優先だ。

 壁にぶつかったときにはまず、「結局、何がどうなったらいいのか?」を問い直し、そのうえで前提自体を疑いながら、「そのためには何をすべきか?」を考えていくようにしよう。

(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)