見えない日銀の利上げスケジュール
FRBは2026年2.8%でほぼ完了

 9月の金融政策決定会合後の記者会見で、今後の利上げについて、植田和男総裁は、アメリカ経済や不安定になっている金融市場の動向を慎重に見極めていく姿勢を強調した。

 日本銀行は、今年3月の決定会合でマイナス金利政策を解除し、政策金利を0~0.1%程度に引き上げた。これは17年ぶりの利上げだった。その後、7月の決定会合では政策金利を0.25%程度に引き上げた。

 だが、利上げを機に円高が進み、株式市場が不安定化するなかで、今後の経済や物価情勢をもとに判断するといいながら、「金融市場のが落ち着き」という“新たな判断基準”をあげている。金融市場の中には株式市場も含まれるのだろう。株価などの動向が利上げスケジュールに影響するという点が市場などでも注目されている。

 この日の会見でも、植田総裁は年内に利上げが行われる可能性があるのか問われたのに対し「特定のタイムラインやスケジュール感を持って、ここまでに確認するというような予断を持っていない」と語った。

 日銀の今後の利上げのペースがはっきりしないのに対して、FMOCは、今後の利下げについてのメンバーの意見を公表している(注1)。それによると、「政策金利の目標水準」で、メンバーの意見が最も多く分布しているのは次の水準だ。

2024年 4.4%程度
2025年 3.2~3.3%程度
2026年 2.8%程度
2027年 2.8%程度

 つまり、24年9月に始めた利下げは26年中にほぼ完了して、政策金利は2.8%程度になるという見通しになっている。

政策金利の目途になる「自然利子率」
日本は▲0.2%程度、低下傾向

 政策金利のめどになるのが、「自然利子率」と呼ばれる概念だ。

 自然利子率は理論上の概念であって、実際にデータとして測定することはできない。

 ただし、推計はできる。一定の条件のもとで、自然利子率は経済の実質潜在成長率に等しいことが、1960年代にアメリカのノーベル賞受賞の経済学者、エドムンド・フェルプス教授の経済成長理論によって証明されているからだ。

 この理論は次のように考えれば、直感的に理解できるだろう。

 物価上昇率がゼロであるような世界を考える。そして1単位の投資をすれば、1年後に1.1単位が回収できるとする。つまり1年間の収益率が10%だとする。

 この場合、もし金利が10%より低ければ、借入れ資金で投資することによって利益を得られる。逆に金利が10%より高ければ、投資は利益をもたらさないので投資が抑制される。

「自然利子率」は実質概念だが、これに均衡状態における期待インフレ率を加えた値が「中立金利」だ。これは金融引き締めでも緩和でもない景気に中立的な金利水準だ。

 日本銀行は自然利子率の推計を行なっており、その結果をワーキングペーパーなどで公表している。最近のワーキングペーパー(注2)によると、複数の手法を用いて日本の自然利子率の推計を行なった結果、日本の自然利子率は長期的にみて緩やかな低下傾向にあることが確認された。

 1995年頃から一部の推計値が初めてゼロを下回った後、緩やかな低下傾向が続き、2010年頃にはほぼ全ての推計値が負の値を取る時期もみられた。推計値の中央値をみると、アメリカが1.3%程度、ユーロ圏が0.5%程度なのに対して、日本は▲0.2%程度となっている。

 自然利子率の低下は、「ゼロ金利制約」といわれる名目金利が実効下限制約に抵触する可能性を高め、短期金利誘導による金融政策対応の余地を制限していた可能性が高いとしている。