オーナー企業ランキング2024年版 上場1580社の全序列#1Photo:SANKEI

「 紅麹(べにこうじ) 」サプリメントによる健康被害を受け、小林製薬がコーポレートガバナンスの抜本的な改革に乗り出している。ただし、この問題を受けた同社の深刻なガバナンス欠如の背景には、創業家依存だけでなく、経営を監督する立場である社外取締役の機能不全もある。特集『オーナー企業ランキング2024年版 上場1580社の全序列』の#1では、社外取による“名ばかり”ガバナンスの実態を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

小林製薬が「創業家依存」脱却へ
元会長には月200万円の破格報酬

 小林製薬は9月17日、「 紅麹(べにこうじ) 」サプリメントによる健康被害を受けた再発防止策を公表した。防止策の三つの柱の一つであるコーポレートガバナンスの抜本的改革の中身には「創業家依存から脱却する」と明記された。

 1919年創業の小林製薬は創業家の出身者が6代続けて社長を務めてきた。今回の問題を受け、7月に会長を引責辞任した小林一雅氏は4代目に当たる。一雅氏は社長時代に「熱さまシート」や「のどぬ~るスプレー」といった大ヒット商品を世に送り出した。6代目で同じく7月に社長を引責辞任した小林章浩氏は一雅氏の息子に当たる。社内では特に一雅氏が強い影響力を誇ってきた。

 だが、創業以来最大ともいえる不祥事への対応は、トップの判断ミスもあり後手に回った。小林製薬が最初に症例報告を受けたのは1月15日。社長には2月6日に報告された。にもかかわらず、自主回収を発表したのは3月22日になってからのことだ。これに関し、章浩氏は8月の記者会見で「健康被害を発生させ、初動で公表まで長い時間を要して混乱を招いたことの責任を感じた」と認めている。

 今回の事態を受け、小林製薬は7月に一雅氏と章浩氏を会長と社長から退任させ、創業以来初となる非創業家の山根聡氏を社長に充てる人事を公表。さらに、9月の再発防止策では、「創業家依存からの脱却」を掲げ、ガバナンス強化の方針を示した。

 ただ、脱・創業家はまだ道半ばといえる。そもそも創業家は小林製薬の株式の約3割を握っている。章浩氏も社長を退いたとはいえ、取締役に留任した。

 特別待遇も問題視された。小林製薬は、会長を退任し、特別顧問に就いた一雅氏に、報酬として通常の顧問の4倍に当たる月額200万円を支払うことを決めた。任期も通常の顧問が2年であるのに対し、一雅氏は3年と定められたのだ。創業家への“忖度”がいまだ見え隠れする。

 今回の問題は、小林製薬の深刻なガバナンス欠如を浮き彫りにした。背景には、創業家への過度な依存もさることながら、創業家に歯止めをかけられなかった社外取締役の機能不全もある。

 同社の社外取には、大物経営学者らが名を連ねるほか、取締役体制も“お手本”のように映る。しかし、実際には、社外取による経営の監督は十分といえるものではなかった。次ページでは、小林製薬で生じた「社外取ガバナンス」の機能不全の実態を明らかにする。