「タイトルに共感した」「優しく包んでくれるような本」「どんどん読み進めていけました」など、読者からの共感の声が続々届いているベストセラー『人生は「気分」が10割 最高の一日が一生続く106の習慣』(著:キム・ダスル、訳:岡崎暢子)は日韓累計35万部を突破した。本書では、「気分」をコントロールし、毎日を機嫌よくすごすために必要なことが軽やかな語り口で書かれている。本稿では、『機嫌のデザイン まわりに左右されないシンプルな考え方』の著者であり、プロダクトデザイナーの秋田道夫氏に、人生を機嫌よく生きることで得られるものについて伺った。(取材・文 宮本恵理子、構成 ダイヤモンド社書籍編集局)

なぜか「だれからも好かれる人」が食事をする際に気を付けている、たった一つのこと首相の食事マナーも話題になる時代だ(Photo: Adobe Stock)

「成功するより有名に」

――秋田さんはプロダクトデザイナーとしてキャリアを積み、70代になった今もデザインの賞を獲得されたりと第一線でご活躍ですね。

秋田道夫(以下、秋田) ありがたいですね。もちろん順風満帆なときばかりではありませんでしたが、年をとってから出版のオファーもたくさんいただくようになりましたし、デザインの仕事も途切れなくいただけています。

 若い頃から「成功するより有名になりたい」という考えがありましたが、まさに願っていたほうへと進めた気がします。

――成功するより有名に、というのは?

秋田 「成功」というのは金銭的あるいは地位の優越によるもので、常に他者との比較競争から逃れられないものなんですよね。

 一方で「有名」とは、一言でいうと「モテ」です。人気者になれるかどうか。より多くの人と新しい出会いを育めるかどうか。

「秋田さんに会ってみたい」「秋田さんとお話をしてみたい」「秋田さんが書いたものを読んでみたい」と思ってくださる人が絶えずいるというのは、幸せなことですよね。特に、自分よりうんと年下の方から声をかけてもらえるのはうれしいものです。わたしが「機嫌」にこだわる理由でもあります。

――年齢を重ねるごとに気難しくなる人も少なくありません。

秋田 それは「気難しく見せる」という自己演出なのかもしれませんよ。いわゆる「先生」と呼ばれるような立場になると、あえて「敷居が高い」存在に身を置きたくなるのでしょうか。

 わたしの場合は、逆なんですね。とにかく穏やかに、ニコニコと笑うようにしています。

 なぜなら、笑わずに澄ました顔でいると、結構な迫力が出てしまうからです。学生時代から「近寄りがたい」と言われるタイプだったので、大人になってからは一層気をつけるようになりました。

 ただでさえ「デザイナー」というだけで遠巻きに見られがちだということを自覚して、相手を緊張させないようにニコニコする。自分がどう感じているかより、どう見られるのか。SNSのアイコンに使う写真もできるだけ感じよく笑っている写真を選んでいます。

「風景としての自分」を意識したいということは、『機嫌のデザイン』でもお伝えしました。

大人は「音無し」がいい

――「機嫌」と「気分」の違いとはなんなのでしょうか。

秋田 違いは明白です。機嫌とは、相手への伝わり方で決まるもの。一方で、気分は単純に自分の感じ方です。

 つまり、機嫌は景色で、気分は心。相手本位なのか自分本位なのか、この違いを意識するだけでも、日ごろのふるまいがちょっと変わってきそうではありませんか。

 機嫌に関していうと、曇り空くらいがちょうどいいですね。毎日晴れているかと思ったら、急にゴロゴロピューピューと言い出してゲリラ豪雨みたいになるのは、ちょっと困る。晴れ過ぎず、急な雨降りにもならない、穏やかに明るい曇りの天気が一番心地いいです。

――機嫌をよく保つことは、相手に対する思いやりでもあるわけですね。

秋田 本当に周りに配慮のある「大人」であるかどうかは、一緒にカレーを食べたら分かるという説を紹介しましょう。

 わたしはあるカレーライスチェーンが好きでよく行くのですが、たまにカチャカチャと音を鳴らして食べる人がいるんですね。スプーンとお皿が当たる音が周りに聞こえていることに気づかない。あるときは、小脇にチェロのような弦楽器のケースを抱えたいかにもハイソな男性が、カチャカチャと音を立てていたので驚きました。「ノイズ」には敏感なはずのお仕事なのに。

 要は、自制心です。周りに気を配れる大人であれば、「音無し」がいい。これが本当の「大人しい」です。

――ユーモアのある表現で、おもしろいです。

秋田 ユーモアとモラル、その掛け算なのでしょうね。Xで投稿する文言を綴るときにも、この2つのバランスは心がけています。

秋田道夫(あきた・みちお)
1953年大阪生まれ。愛知県立芸術大学卒業。ケンウッド、ソニーで製品デザインを担当。1988年よりフリーランスとして活動を続ける。代表作に、省力型フードレスLED車両灯器、LED薄型歩行者灯器、六本木ヒルズ・虎ノ門ヒルズセキュリティゲート、交通系ICカードのチャージ機、一本用ワインセラー、サーモマグコーヒーメーカー、土鍋「do-nabe240」など。2020年には現在世界一受賞が難しいと言われるGerman Design AwardのGold(最優秀賞)を獲得するなど、受賞多数。2021年3月よりX(@kotobakatachi)で「自分の思ったことや感じたこと」の発信を開始。2022年7月からフォロワーが急増し、10万人を超える。著書に『機嫌のデザイン まわりに左右されないシンプルな考え方』(ダイヤモンド社)、『かたちには理由がある』(早川書房)がある。