韓国の電池メーカー各社は、米国の「インフレ抑制法(IRA)」の恩恵にあずかってきた。ジョー・バイデン大統領の下で成立した、気候変動対策が盛り込まれた法律だ。ドナルド・トランプ前大統領の再選でいくらか不透明感が増したが、それほど悪い状況ではないかもしれない。
電気自動車(EV)など先端技術製品向けの電池メーカーは、トランプ氏の再選以降、株価が急落している。韓国電池大手 サムスンSDI の株はこの1カ月で23%も値を下げ、同 LGエナジーソリューション の株は9%下落している。トランプ氏は選挙遊説の中でEV購入に対する補助金を激しく批判し、IRAを撤廃する可能性さえ口にしている。
IRAが電池メーカーに与える恩恵は二つの要素から成る。一つ目は税控除によってEV需要が押し上げられ、間接的に電池の販売増につながるという点だ。さらに重要なのは二つ目で、IRAが米国内で製造・販売する電池にも補助金を出しており、投資ブームに拍車をかけたことだ。特に韓国の電池メーカーはこのチャンスに直ちに対応した。バーンスタインによると、2027年までにサムスンとLGでは総生産能力の40%以上を米国の生産拠点が占める見通しだ。
IRAが全面撤廃されることは考えにくい。IRAに基づく投資は、伝統的に共和党支持者の多い州(赤い州)やスイングステート(激戦州)に集中し、そこで雇用を創出している。調査会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスによると、1100億ドル(約16兆5000億円)の政府支出のうち92%が赤い州に投じられ、民主党支持者の多い州への支出は7%にとどまる。例えば、サムスンSDIと欧州自動車大手ステランティスはインディアナ州で計画する電池工場に32億ドル余りを投資している。LGも韓国の現代自動車と組み、ジョージア州で建設中のEVと電池の製造工場に76億ドルを投じている。