テクニックを使う本当の目的とは?

――そのテクニックを教えて、使うことの『目的』ということですね。

中山:たとえば、なんで勉強しないといけないの? って言われて、『勉強することで成績が高くなるからだよ』と返すのって、あまりにも無責任ですよね。成績が上がるというのは、短期的なメリットでしかないわけですから。

本当は、『勉強することで、複雑な情報処理ができるようになり、思考力が高まり、未来を予想することができるようになるんだよ』と、その先の奥行きを伝えてあげるべきです。

テクニックに関しても同じで、『これができると、新しい問題が解けるようになり、思考の幅が広がっていき、今まで考えられなかったことが考えつくようになるかもしれないよ』と伝えてあげるべきです。『このテクニックで成績が上がる』というのは、あまりにも奥行きがない発言だと思います。

――テクニックを身につけることは、テストでいい点数を取る以上の目的が本来存在していて、それを伝えきれていない教育は問題なのではないか、ということですね。

中山:そうです。テクニックを身につけて、それを学力試験で活用できるようになるためのプロセスの中でも、さまざまな学びがあると思います。たとえばテストにおいて、『出題者の意図を考えると答えが出る』というテクニックが存在しますが、これはこのテクニックを身につける過程の中で、『テストにおいて出題者を意識する』というメタ認知能力を獲得することができますよね。

また、『ただ順番にテストの問題を解くだけでなく、しっかりと配点を見てテスト問題を解くべきだ』というテクニックを身につける過程の中で、『テストで何点くらい取りたいのかを考えつつテストを解く』という戦略性を獲得することができるわけです。テクニックを身につけることは、このようにそのプロセスの中で獲得できるものも多いと考えられます。

――テクニックというと、テストで測れる能力、つまり認知能力を高めるためだけのものというイメージがありますが、そうとも言い切れないということですね?

中山:おっしゃるとおりです。人間的な成長、たとえばコミュニケーション能力とかメタ認知能力とか忍耐力とか、そういった非認知能力と呼ばれる能力を開発していくべきである、という論調は最近大きくなってきています。これに対して、その分野について研究していた人間の一人としてお話をさせていただくと、非認知能力の育成のためには、認知能力・つまりはテストで測れるような学力の養成も不可欠です。竹馬のように、相互作用を及ぼすものだと考えられます。

テクニックを身につけることは、新たな非認知能力の獲得にも繋がるのではないかということですね。

――テクニックを身につけることは、新たな非認知能力の獲得にも繋がるのではないかということですね。これからの時代を作るエリートになっていくような生徒たちには、ぜひ目の前のテストのためではなく、自己の成長のためにテクニックを身につけて欲しいですね。そしてそれを、先生がもっと言語化して伝えられるようになっていくことが求められるのかもしれませんね。中山先生、ありがとうございました。